退職時に誓約書へのサインを求められることがあります。退職時は手続きが多く、何も考えずに誓約書へサインする人もいるのではないでしょうか。自分に不利益な内容が書かれている場合もありますので、その場合サインを拒否することが大切です。
本記事では、退職時に誓約書へのサインは拒否できるのか、効力や断り方について解説します。
・退職時の誓約書に記載されている内容は「競業避止義務」「機密守秘義務」などが多い
・「誓約書の内容が合理的な範囲を超えている」「サインすることを強要された」場合は、誓約書にサインしたとしても、取り消すことが可能
目次
退職時に誓約書へのサインは拒否できる
結論からいえば、退職時に誓約書へのサインを拒否することは可能です。会社は強制的に誓約書へサインさせることはできません。労働者の同意が必要ですので、自分に不利益な内容であればサインを拒否できます。
退職者は軽はずみに誓約書へサインするのではなく、書かれている内容をしっかりチェックしましょう。書かれている内容が難しくてわからない場合も同様です。
必ずその場でサインする必要はないので、保留し持ち帰ってよく考えましょう。
退職時に誓約書へサインさせる目的・記載内容は?
退職時の誓約書には、どのような内容が記載されているのでしょうか。目的と記載されている内容について見ていきましょう。
- 競業避止義務
- 機密守秘義務
- 顧客情報の持ち出し禁止
- 顧客との取引禁止
競業避止義務
競業避止義務とは、退職者が所属していた企業と競合にあたる会社や組織に転職したり、自ら競合にあたる会社を起業したりするなどの競合行為をしてはならないという義務のことです。
退職後に前職の営業情報を持ち出し競合行為をした場合、企業に不利益を及ぼす恐れがあります。一部を制限することでその不利益を防ぐことが目的です。
競業避止義務で重要なことは、制限する範囲です。労働者には職業選択の自由(憲法第22条)があります。そのため、競合行為をすべて制限した場合、職業選択の自由が奪われてしまいます。つまりは合理性のある条件かどうかが重要です。
退職時の誓約書に競業避止義務が含まれている場合は、競業を禁止する期間・エリア・地位などが合理的であるか確認しましょう。
機密守秘義務
機密守秘義務とは、企業が定めた機密情報を社外に漏らさないために労働者に課せられる義務です。競業避止義務と同様に情報が漏えいすることで、企業に不利益が及ぼされることを防ぐことが目的です。また、職種によっては顧客の個人情報を扱います。顧客のプライバシーを守り被害を与えないことも目的の1つです。
機密守秘義務は、社会通念からみても妥当な内容です。競業避止義務とは違い、退職者に不利益を及ぼす条件は少ないと思いますが、しっかり内容を把握しておきましょう。
顧客情報の持ち出し禁止
顧客情報の持ち出し禁止は、退職時に退職者が担当していた顧客の情報を持ち出すことを禁止することです。「顧客との取引禁止」とセットで書かれている場合もあります。また、これは退職時だけでなく在籍中も適用されるケースが多く、入社時に誓約書へサインしていることもあります。
顧客情報の持ち出し禁止は、例えば以下のように記載されています。
従業員(退職者)は、顧客の氏名・住所・連絡先・取引に関する情報・顧客が会社に提出した資料などが、会社の機密情報であることを認識しなければならない。また、これらの情報に関して在籍中・退職後に問わず情報を持ち出し、自己または第三者の利益のために利用してはならない。
退職者は、顧客に関する情報の範囲を確かめておきましょう。範囲が具体的に指定されていない場合は、効力をなさない場合があります。
顧客との取引禁止
顧客との取引禁止とは、退職者が担当していた顧客と退職後に取引することを禁止することです。退職後にこれまで通り退職者が顧客と取引してしまうと、企業に不利益が及びます。
顧客との取引禁止は、例えば以下のように記載されています。
従業員は退職後3年間、在籍時に担当していた顧客に対して商品やサービスを販売・提供してはならない。
どのような場合で違反になるのか、年数などを見て、退職者の不利益な条件になっていないか確かめましょう。
退職時の誓約書とは?
誓約書とは、書面に記載されている内容を提出者と約束し、その内容に基づき義務を負うことをまとめた書面です。退職時の誓約書とはどのようなものか、以下の2つについて見ていきましょう。
- 退職時の誓約書に記載する内容は?
- 退職時の誓約書の効力について
退職時の誓約書に記載する内容は?
退職時の誓約書には「競業避止義務」や「機密守秘義務」などについて記載されています。退職者は、誓約書の内容を確認し問題なければサインします。退職者が記載する内容は以下の通りです。
- 退職者の名前
- 退職者の住所
- 日付
- 捺印
会社のフォーマットによって記載内容は変わりますが、おおむね上記の4つを記載します。
退職時の誓約書の効力について
誓約書を作成し、署名と捺印されたものは、法的効力があります。そのため、誓約書に書かれている内容を守らなかった場合、損害賠償を請求される可能性が高いです。
しかし、公の秩序又は善良の風俗に反する場合(民法90条)は、その効力は無効となります。例えば、以下のようなときは効力が無効になりやすいです。
- 職業選択の自由を著しく制限した場合
- 合理的な条件ではない場合
- 残業代や退職金請求の権利を放棄する場合
主に制限される範囲(期間・エリア・職種・地位など)が合理的ではない場合、効力が無効になる可能性があります。
退職時に誓約書のサインを拒否する方法・断り方
退職時に誓約書のサインを拒否する方法・断り方は、以下の4つです。
- 誓約書にサインしない
- 誓約書のサインを保留する
- サインした場合は撤回する
- 弁護士に相談する
それぞれについて見ていきましょう。
誓約書にサインしない
退職時に誓約書のサインを拒否する場合、「内容に同意できないためサインできません」と断りましょう。退職時の誓約書は、義務ではありませんので、必ずサインする必要はありません。
内容をしっかり確認して上で、納得がいかない場合はサインを拒否することが可能です。サインできない理由を明確に伝えれば、会社も理解してくれるでしょう。
誓約書のサインを保留する
退職時の誓約書に書かれている内容がわからない、サインしてもいいか悩んでいる場合は、すぐにサインするのではなく「サインするか悩んでいるので持ち帰って考えさせてください」と保留にしましょう。
誓約書のサインをその場でする必要はありません。持ち帰って考えることも可能です。とくに退職日まで期間がある人は、一度持ち帰って内容をしっかり確認して上でサインするか検討しましょう。
サインした場合は撤回する
誓約書へサインした場合は、同意したものと認められるため誓約書に効力が発生します。サインしたものは変更できないと思われがちですが、サインを撤回することが可能です。サインを撤回できる条件は、以下の通りです。
- 誓約書の内容が合理的な範囲を超えている
- 誓約書にサインするよう、脅迫・強要などがあった
一度サインしたものを撤回することは容易ではありませんが、上記の場合は撤回できる可能性があります。
サインを撤回する場合は、「誓約書に強制的にサインさせられたこと」や「脅迫を理由として誓約書へサインを取り消す」といった趣旨を書面に記載し、会社へ提出しましょう。
サインを強要するような会社は、誓約書を取り消す内容を記した書面を送っても無視する可能性があります。会社から何も対応がない場合は、弁護士に相談しましょう。
サインを強要される雰囲気がわかっている場合は、誓約書へサインするときの様子を録音しておくことがおすすめです。後日、誓約書を撤回するときの証拠として役立ちます。
弁護士に相談する
誓約書に書かれている内容がわからずサインしていいか迷っている場合は、弁護士に相談しましょう。サインすべきかどうかについてアドバイスがもらえます。また誓約書へのサインを強要されたときやトラブルになった場合も、弁護士に相談してください。
誓約書にサインしたとしても弁護士に相談すれば、誓約書の効力を争えます。誓約書が合理的な内容でなければ効力は無効です。
退職時に誓約書へのサインを拒否したらどうなる?
退職時に誓約書へのサインを拒否した場合、会社との関係性が悪化する恐れがあります。誓約書へのサインは退職直前であることが多いため、とくに気にしなくてもいいかもしれません。しかし、できる限り円満退職で終わらせたい場合は、誓約書の内容を変更してもらえるように交渉しましょう。
公序良俗に反していることを申し立て、条件の緩和を目指します。例えば、範囲を限定的なものに変えてもらいましょう。
誓約書へのサインを拒否したとしても、拒否した理由を明確に伝えれば、納得してもらえる会社もあります。必ずしも会社との関係性が悪化するわけではないので、良好な関係性を維持できるように意識しましょう。
退職時の誓約書に関するよくある質問
退職時の誓約書に関するよくある質問は、以下の通りです。
- 退職時の誓約書の内容を守らなかったら損害賠償を請求される?
- 退職時に誓約書へのサインを要求することは違法?
- 退職時にサインした誓約書はいつまで有効なの?
- 誓約書は退職時だけでなく入社時にサインする場合があるの?
それぞれについて見ていきましょう。
退職時の誓約書の内容を守らなかったら損害賠償を請求される?
退職時の誓約書の内容を守らなかった場合、損害賠償を請求される可能性があります。損害賠償を請求された場合は、誓約書の効力が無効であるか裁判します。実際に損害賠償を請求された判例を見ていきましょう。
- ソフトウェアテスト専門業者に入社した社員Aは、AIの研究開発やテスト業務を行う会社に転職
- 社員Aは入社時に守秘義務に関する誓約書を提出しており、退職時にも守秘義務・競業避止義務に関する誓約書を提出
- しかし、転職先にて前職で使用していたファイルを顧客向けに使用
- 前職の企業は、入社時・退職時に提出した誓約書の内容に違反するとして損害賠償請求を要求
- 令和4年5月31日の東京地方裁判所の判決で、社員Aは約12万円の損害賠償を科される
参考資料:裁判例結果一覧
退職時に誓約書へのサインを要求することは違法?
退職時に誓約書へのサインを要求することは、必ずしも違法にあたるとはいえません。ポイントとしては、誓約書へのサインを強要されたかどうかです。合理性のない誓約書を作成し、強制的にサインさせることは法律で禁止されているため違法です。
仮に強制的にサインさせられたとしても、違法性を訴えれば法的な効力をもつことはありません。
退職時にサインした誓約書はいつまで有効なの?
誓約書の内容で期間を制限していない場合は、無期限で有効になります。しかし、守秘義務などを無期限に設定したとしても、効力が無効になるケースが多いため一定の期間を設けている場合が多いです。
誓約書の内容をよく読み、制限されている期間を確かめた上でサインするか検討しましょう。
誓約書は退職時だけでなく入社時にサインする場合があるの?
誓約書のサインは退職時だけではありません。守秘義務などは入社時に誓約書へサインを求められるケースが多くあります。そのため、入社時に誓約書へサインしていないか確認しておくことが大切です。
総務や人事に問い合わせれば資料を提示してもらえます。もし入社時に誓約書へサインしていたとしても、合理性に欠ける内容であれば、効力がありません。しかし、社会通念上、問題のない誓約書であれば効力があります。そのため、たとえ退職時にサインを拒否したとしても意味がありません。
まとめ
退職時に誓約書へのサインを拒否することは可能です。誓約書へサインは義務ではありませんので、内容に納得いかなければ「誓約書に同意できません」と断りましょう。
もし、退職時の誓約書にサインしたとしても、合理性に欠ける内容であれば撤回することが可能です。制限される範囲(期間・エリア・職種・地位など)が合理的であるか確かめましょう。
誓約書へ強制的にサインさせられて場合や、誓約書にサインすべきか悩んでいる場合は弁護士に相談しましょう。
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