契約社員は退職金がもらえるのか、気になる人は多いのではないでしょうか。結論からいえば、退職金がもらえるかどうかは、会社次第です。これは正社員も同じです。正社員でも退職金がもらえない場合があります。
本記事では、契約社員は退職金がもらえるのか詳しく紹介します。また、契約社員から正社員へキャリアアップを検討している人に向けて、正社員との違いも紹介していますので、参考にしてください。
・契約社員が退職金をもらえるかどうかは、会社によって異なる。ただし、もらえない場合の方が多い
・契約社員でも正社員と同等の業務をしている場合は、同一労働同一賃金の制度によって退職金がもらえる
・退職金だけでなく雇用期間、勤務地、福利厚生など正社員と異なるものが多い
目次
契約社員は退職金がもらえる?もらえない?
契約社員は退職金がもらえないケースがほとんどです。契約社員だけでなく、正社員であってももらえない場合があります。
- 契約社員は退職金がもらない場合が多い
- 正社員も退職金がもらえない場合がある
- 契約社員以外にも退職金がもらえない雇用形態はある?
それぞれについて見ていきましょう。
契約社員は退職金がもらない場合が多い
契約社員が退職金をもらえるかどうかは、会社によって異なります。ただし、一般的にはもらえない会社が多いため、もらえないと思っておく方が無難です。そもそも退職金については、法律で定められていませんので、会社は支給する義務がありません。
ボーナスと同じで、退職金を支給するかどうかは会社の裁量によって異なるのです。退職金を支給する会社の多くは、勤続年数を基準に退職金を設定するケースが多くあります。例えば、厚生労働省の「モデル就業規則(令和5年7月)」であれば、以下のように定められています。
勤続年数 | 支給率(%) |
---|---|
5年未満 | 1.0% |
5 年~10 年 | 3.0% |
21 年~25 年 | 10.0% |
31 年~35 年 | 17.0% |
41 年~ | 25.0% |
厚生労働省のモデル就業規則では、5年未満から支給されますが、3年未満は支給されないように定めている会社が多いです。契約社員は1回の雇用契約で最長3年しか契約できないことが、労働基準法第14条で定められています(高度の専門的知識等を有する労働者の場合は最長5年)。
そのため、契約社員は退職金の支給者の対象外になるケースが多く、もらえない場合が多いでしょう。また、支給されたとしても支給額は多くありません。厚生労働省のモデル就業規則を見ても、5年未満は支給率が1%となっています。数万円程度にしかならない場合があります。
正社員も退職金がもらえない場合がある
正社員だからといって必ず退職金もらえるとは限りません。上記で説明した通り、退職金については法律で定められていませんので、退職金がもらえるかは会社次第です。厚生労働省が発表している「令和5年就労条件総合調査」によると、退職給付(一時金・年金)制度がある会社は以下の通りです。
企業規模 | 退職給付制度がある | 退職給付制度がない |
---|---|---|
1,000人以上 | 90.1% | 9.9% |
300~999人 | 88.8% | 11.2% |
100~299人 | 84.7% | 15.3% |
30~99人 | 70.1% | 29.9% |
平均 | 74.9% | 25.1% |
大規模な企業ほど退職給付制度がある(退職金がもらえる)傾向があります。また、産業別によっても、退職金がもらえるかもらえないか異なります。厚生労働省の同調査を見ていきましょう。
産業 | 退職給付制度がある | 退職給付制度がない |
---|---|---|
複合サービス事業 | 97.9% | 2.1% |
鉱業・採石業・砂利採取業 | 97.6% | 2.4% |
電気・ガス・熱供給・水道業 | 96.4% | 3.6% |
金融業・保険業 | 92.8% | 7.2% |
教育・学習支援業 | 87.3% | 12.7% |
学術研究・専門・技術サービス業 | 87.2% | 12.8% |
製造業 | 85.6% | 14.4% |
建設業 | 82.9% | 17.1% |
卸売業・小売業 | 77.4% | 22.6% |
医療・福祉 | 75.5% | 24.5% |
不動産業・物品賃貸業 | 74.7% | 25.3% |
情報通信業 | 74.6% | 25.4% |
運輸業・郵便業 | 69.9% | 30.1% |
生活関連サービス業・娯楽業 | 68.5% | 31.5% |
サービス業(他に分類されないもの) | 54.4% | 45.6% |
退職給付制度がある割合が一番高い複合サービス事業(97.9%)と、一番低いサービス業(54.4%)では、43.5%も異なります。正社員でも退職金をもらえない会社が多くありますので、契約社員であればなおさらもらえる可能性は低いでしょう。
契約社員以外にも退職金がもらえない雇用形態はある?
契約社員以外にも、パートタイム・準社員・派遣社員などは、退職金がもらえないことが多いです。これらの雇用形態の人は、退職金がもらえないのか就業規則を確認しましょう。例えば、勤続年数8年以上のパートタイム労働者であれば、退職金を支給するなどの記載があれば、退職金がもらえます。
同一労働同一賃金によって、正社員との間の不合理な待遇差をなくす取り組みが進められています。そのため、契約社員やパートタイムなども退職金がもらえやすくなる環境が増えていくでしょう。
契約社員と同一労働同一賃金について裁判例を踏まえて紹介
2020年4月1日(中小企業は2021年4月1日)から施行された同一労働同一賃金によって、正社員との間で不合理な待遇差をなくす取り組みが進められています。契約社員でも退職金がもらえるのか、裁判例を踏まえながら見ていきましょう。
- 同一労働同一賃金とは
- 契約社員が退職金をもらえないと違法?裁判例を踏まえて解説
同一労働同一賃金とは
同一労働同一賃金とは、正規雇用労働者(正社員など)と非正規雇用労働者(契約社員やパートタイム、派遣社員など)との間の不合理な待遇差をなくす取り組みです。大企業は2020年4月1日、中小企業は2021年4月1日に施工されました。
基本給や昇給、ボーナスだけでなく退職金や福利厚生なども、同一労働同一賃金によって不合理な待遇差をなくすことが重要です。詳しくは、厚生労働省の「同一労働同一賃金ガイドライン」を参照してください。
契約社員が退職金をもらえないと違法?裁判例を踏まえて解説
正社員に退職金を支給し、契約社員には退職金を支給しないのは、同一労働同一賃金(パートタイム・有期雇用労働法)に違反しないのか、という問題があります。この問題に対し、令和2年10月13日のメトロコマース事件最高裁判決を参考に見ていきましょう。
メトロコマース事件最高裁判所判決の概要
この事件は、東京メトロの駅構内の売店で働いていた従業員が、正社員には退職金を支給し、契約社員には退職金を支給しないのはおかしいと、訴えた事案です。勤続年数10年前後の契約社員4名が、退職金をもらえないのは違法だと訴訟しました。
最高裁判所の判決
最高裁判所の判決は、契約社員に退職金を支給しなくても違法ではないという判断です。ただし、正社員と契約社員の間で、退職金の格差が不合理である場合は違法にあたるとも指摘しました。
今回の事件が違法ではないと判断された理由は、以下の通りです。
- 正社員と契約社員の間の業務内容において、責任の差があった
- 正社員は人事異動があったが、契約社員は人事異動がなかった
- 契約社員から正社員へと昇格できる制度が設けられていた
最高裁判所の例を踏まえて契約社員が退職金をもらえないと違法になる場合は?
メトロコマース事件最高裁判所判決の例を踏まえると、正社員との間で「職務の内容や配置転換」に差がない場合において、退職金がもらえない(支給金額に格差がある)と違法にあたる可能性が高いです。
とくに継続年数が長い契約社員は、正社員と同等の業務を任されるケースがあります。この場合、人事異動などがあるのか、正社員登用制度があるのか、によっても違法にあたるか異なりますので、見ておきましょう。
退職金がもらえる正社員ともらえない契約社員の違い
正社員と契約社員の違いは、退職金だけではありません。契約社員から正社員を目指している人は、正社員と契約社員の違いを見ていきましょう。
- 1.雇用期間
- 2.勤務地(転勤・異動)
- 3.給与・賞与
- 4.昇進・昇給
- 5.福利厚生
- 6.退職(解雇予告)
1.雇用期間
正社員は雇用期間が定められていません。契約社員は、契約時に雇用期間を定めます。1回の契約で最長3年まで可能です。契約期間が終了すれば再契約するか検討し、雇用を延長するか判断します。2013年に労働契約法が改正され、通算5年以上働いていれば契約期間のない「無期労働契約」へ変更できるようになりました。
2.勤務地(転勤・異動)
正社員は転勤や異動があり、やむを得ない事情がない限りは断れません。契約社員は、契約時に指定された勤務地から変わることは原則ありません。ただし、就業規則や雇用契約書に「契約社員でも転勤や異動命令に従うこと」など、規定されている場合もあります。正社員と比べると転勤や異動になる可能性は、極めて低いです。
3.給与・賞与
給与は正社員・契約社員ともに月給制であることがほとんどです。契約社員の場合、会社によっては時給制や年俸制の場合もあります。賞与は、法律で定められていませんので、賞与があるかは会社次第です。契約社員の場合は、就業規則や雇用契約書に規定がなければ基本的にはもらえません。
また賞与をもらえたとしても、正社員よりも金額が少ないことが多いです。ただし、先に述べたように正社員と同等の業務をこなしている場合は、「同一労働同一賃金」の制度により、正社員と同等の賞与をもらえます。
4.昇進・昇給
正社員は年に1~2回人事面談があり、勤務態度や業務内容、勤続年数に応じて昇進や昇給があります。契約社員は、契約時に定めた条件のまま働くことになり、契約途中の昇進や昇給はほとんどありません。ただし、契約更新時には正社員と同様に会社への貢献度によって昇進や昇給があります。
5.福利厚生
厚生年金保険、健康保険、雇用保険、労災保険の4つの社会保険は、それぞれの条件さえ満たしていれば、正社員と同様に扱われます。しかし交通費や住居費、扶養手当などの法定外の福利厚生は、正社員のみ適用され、契約社員には適用されないことがあるでしょう。
6.退職(解雇予告)
正社員は2週間前に退職意思を伝えれば、法律上問題ありません。契約社員は原則、契約期間中に辞められません。契約期間中に退職したい場合は、やむを得ない理由が必要です。ただし、3回以上契約更新している場合や、1年以上継続して勤務している場合は、30日前に退職意思を伝えれば辞められます。
契約社員が退職金をもらえないときの対処法
契約社員が退職金をもらえないときの対処法は、なぜ退職金がもらえないか会社から説明してもらいましょう。正社員と同様の仕事をしている場合は、同一労働同一賃金の制度より差別があってはいけません。会社は説明する義務がありますので、納得のいく回答を得ましょう。
また、退職金制度のある会社の場合、退職金について就業規則や雇用契約書に規定があります。契約社員が退職金をもらえない根拠が示されているか規定を確認しましょう。
契約社員と退職金についてのよくある質問
契約社員と退職金についてのよくある質問は、以下の通りです。
- 契約社員は退職金をいくらもらえる?平均相場は?
- 退職金以外で契約社員のメリット・デメリットは?
- そもそも契約社員は契約途中で退職できるの?
- 契約社員は失業保険がもらえる?
それぞれについて見ていきましょう。
契約社員は退職金をいくらもらえる?平均相場は?
契約社員は、退職金をもらえないケースが多く、具体的な平均相場は公表されていません。そのため、退職金の計算方法をもとにおおよその金額を算出してください。退職金の計算方法は大きく分けて5つです。
1.最終給与連動方式
最終給与連動方式は、退職時の基本給に対して、勤務態度や勤続年数、年齢などを考慮して計算する方法です。「退職金=退職時の基本給×支給率×退職事由係数」で求められます。支給率などは会社の就業規則で定められているケースが多いため、確認しておきましょう。
2.全期間平均給与方式
先ほどの最終給与連動方式は、退職時の基本給だったことに対し、全期間平均給与方式は働いたすべての期間の基本給を考慮して計算する方法です。「退職金=在職中の平均基本給×支給率×退職事由係数」で求められます。
3.別テーブル方式
別テーブル方式は、最終給与連動方式と似た計算方法です。別テーブル方式の場合、あらかじめ会社が定めた基本給が退職時の基本給になります。退職時の基本給をあらかじめ設定しておくことで、大幅な賃上げなどが起きた場合に退職金が高くなりすぎないようにする仕組みです。「退職金=会社があらかじめ決めた月例賃金(第二基本給)×支給率×退職事由係数」で求められます。
4.勤続年数別定額方式
勤続年数別定額方式は、基本給を設定せず、勤続年数によって退職金が積み立てていく方法です。「退職金=積立額の合計×支給率×退職事由係数」で求められます。
5.ポイント制方式
ポイント制方式は、従業員の評価、勤続年数、年齢、役職などによりポイントが与えられ、そのポイントの合計値によって退職金が算出される方法です。あらかじめ1ポイント〇万円など、ポイント単価が定められています。「退職金=ポイント累積値×ポイント単価×支給率×退職事由係数」で求められます。
退職制度がある会社では、上記の5つの方式から採用しています。自分の状況をあてはめて計算しましょう。
退職金以外で契約社員のメリット・デメリットは?
契約社員のメリット・デメリットは以下の通りです。
契約社員のメリット
- 特定の業務で専門スキルを身につけられる
- 勤務地や勤務時間が変わりにくいため働き方が安定している
- 正社員登用制度のある会社であれば正社員を目指せる
契約社員は契約時に業務内容や勤務地、勤務時間などを定め、契約期間中に変更することがほとんどありません。そのため、急な転勤や異動がなく働き方をコントロールしやすいです。また、業務内容も特定されているため、専門スキルを身につけやすいことがメリットです。
契約社員のデメリット
- 契約更新とは限らず収入が安定しにくい
- 正社員に比べ年収が低くなる
- 福利厚生が限定的
最長3年は契約ができますが、契約が更新されるとは限りません。会社の業績次第では更新されないケースもあります。また、月給だけを見ると正社員と差がないように見えますが、賞与や昇格などがない会社が多いため長期的に見ると年収が低くなります。
契約社員は、正社員に比べて制限されているものが多く福利厚生もその一つです。住居手当や扶養手当など、対象外になってしまう場合があります。
そもそも契約社員は契約途中で退職できるの?
契約社員は原則、契約途中で退職できません。ただし、3回以上契約更新している場合や、1年以上継続して勤務している場合は、30日前に退職意思を伝えれば辞められます。
契約社員は失業保険がもらえる?
契約社員であっても、条件を満たしていれば失業保険をもらうことが可能です。失業保険がもらえる条件は、一定期間に雇用保険に加入していることです。退職する前に雇用保険に加入していなければ、失業保険はもらえません。なお、雇用保険の加入条件は以下の通りです。
- 31日以上継続的に雇用される見込みがある場合
- 1週間の所定労働時間が20時間以上ある場合
上記の条件を満たし雇用保険に加入した上で、直近2年間で通算12ヶ月以上あれば、失業保険がもらえます。
まとめ
契約社員は退職金がもらえないケースがほとんどです。ただし、「同一労働同一賃金」の制度によって、正社員と同等の業務をしている場合は退職金がもらえます。退職金がもらえない場合は、就業規則や雇用契約書を確認し、契約社員について定めがないか見ておきましょう。
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