残業した証拠を示すときにはタイムカードが有効です。しかし、職場によってはタイムカードが設置されていない場合があります。「そもそもタイムカードがないのは違法なのでは?」「タイムカードがない場合に残業した証拠になるものは?」と悩む人は少なくありません。
本記事では、職場にタイムカードがないのは違法かどうか解説します。また、タイムカードがないときに残業した証拠になるものについて紹介しますので、参考にしてください。
・職場にタイムカードがないからといって、違法にはならない
・労働者の勤怠記録を適切に把握していない場合や未払いの残業代を支払っていない場合は違法になる
・職場にタイムカードがないときに残業した証拠となるのは、業務日報・上司や取引先に送ったメール・パソコンのログイン履歴など
目次
職場にタイムカードがないのは違法なのか
職場にタイムカードがないのは違法になのか解説します。
- 職場にタイムカードを設置する義務はない
- 会社は労働者の勤怠状況を把握する義務がある
- 勤怠管理について厚生労働省のガイドライン
職場にタイムカードを設置する義務はない
結論からいえば、職場にタイムカードがなくても違法ではありません。ただし、労働者の勤怠状況を適切に記録されていない場合は、違法になる可能性があります。そのため、タイムカードがないことが違法にあたるかは、会社の勤怠管理の状況によります。
タイムカードを設置していない職場では、タイムカード以外の方法で勤怠管理を行い、残業代を支払っていれば問題ありません。近年では、スマホやPC、タブレットなどを利用して勤怠管理している会社が増えています。機械を使って勤怠管理している企業がある一方で、自己申告制の企業も少なくありません。
会社は労働者の勤怠状況を把握する義務がある
勤怠管理する方法は会社の自由です。しかし、どの手段を取ったとしても、労働者の勤怠状況の把握を義務付けられています。労働安全衛生法第66条8の3では、「医師による面接指導を確実に実施するため、労働時間を客観的な方法(適切な方法)で把握すること」を義務付けています。これは労働者の健康を保護するためです。
労働時間を管理していない会社では、過重労働による過労死などの労働災害が発生するリスクが高くなります。会社が労働時間を適切に把握していなければ、残業代を支払うこともできません。
労働基準法第109条では、「労働者名簿・賃金台帳・賃金など労働に関する重要な書類は5年間保存しなければならない」と義務付けています。勤怠状況を把握するためには、労働時間が記載された賃金台帳などを保管しておく必要があるのです。つまり、1ヶ月間の残業時間がわかったとしても、過去5年間の記録がなければ違法になります。
勤怠管理について厚生労働省のガイドライン
タイムカードの使用は法律で定められていませんが、労働時間を適切に把握することは義務付けられています。「労働時間を適切に把握する」方法については、厚生労働省のガイドラインに記載されており、以下の通りです。
- 使用者が、自ら現認することにより確認すること
- タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること
基本的には上記の方法で労働時間を管理することが望ましいです。しかし、社会活動が多く、タイムカードでの管理が難しい場合は自己申告制も認められています。
自己申告制を採用する場合は、「労働者に労働時間を適切に記録するように伝える」など、ガイドラインに定められた措置を講じておくことが大切です。自己申告制は、労働時間の管理があいまいになりがちですので、注意しましょう。
参考元:労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン |厚生労働省
職場にタイムカードがないと違法になるケース
職場にタイムカードがないと違法になるケースもあります。例えば、次の3つのケースです。
- 残業時間の改ざんによる残業代の未払い
- 労働者による残業時間の改ざん
- 勤怠記録(残業時間)が管理されていない
それぞれについて見ていきましょう。
残業時間の改ざんによる残業代の未払い
職場にタイムカードがなければ、労働時間の管理が難しくなります。記録に残りづらいため、会社が残業時間などを操作するおそれがあります。会社が勤怠記録を改ざんすることは違法です。勤怠記録の改ざんにより、未払いの残業代が発生した場合は懲役6カ月以下、もしくは30万円以下の罰金が科されます(労働基準法第119条)。
故意に残業時間を操作していなかったとしても、法的ルールを把握していないことにより勤怠記録の改ざんにあたる場合があります。例えば、残業時間を1日単位で計算する際は、1分単位で残業時間を計算しなければなりません。知らずに5分や15分未満の残業時間を切り捨てていたことが発覚すれば、違法行為とみなされます。
労働者による残業時間の改ざん
勤怠記録の改ざんは、会社だけではありません。労働者が改ざんすることもあります。少しでも給料をもらうために、残業時間を改ざんするケースは少なくありません。もちろんこれは詐欺行為ですので犯罪です。実際に残業時間を改ざんし、給与を多く請求した場合、刑法第246条により10年以下の懲役が科されます。
職場にタイムカードがないことをいいことに、残業時間を改ざんするのは犯罪ですので、注意しましょう。
勤怠記録(残業時間)が管理されていない
先に説明した通り、労働基準法第109条により「労働に関する重要な書類は5年間保存しなければならない」と義務付けています。職場にタイムカードがなく、勤怠記録が正しく管理されていない場合は違法です。
職場にタイムカードがない!残業した証拠になるものは?
職場にタイムカードがないと、「どのように残業したことを証明すればいいのかわからない」と悩む人は多いのではないでしょうか。残業した証拠がなかったとしても未払いの残業代を請求した判例はあります。しかし、証拠があるほうが確実です。
- 業務日報
- 職場で勤怠記録しているもの
- 仕事に関するメールやLINEの送信履歴
- 職場のパソコンのログイン履歴
- 職場に設置された防犯カメラの録画
上記の5つは、残業した証拠になりやすいため、確認しておきましょう。
業務日報
業務日報は、今日一日働いた内容を書き記した報告書のことです。職場によっては、業務日報の有無が異なります。業務日報は、その日の出来事を記載しますので、働いていた記録として有効です。ただし、一言メモのように詳細まで書かれていないと、証拠として不十分になる可能性があります。
職場にタイムカードがない場合は、いつ・どこで・何をしていたのか、詳細に書き留めるように心がけましょう。
職場で勤怠記録しているもの
タイムカードで管理していなかったとしても、他のもので勤怠記録を管理している場合は、それが証拠になります。エクセルや紙、スマホ、タブレットなど、勤怠記録できるものはさまざまです。どの方法を採用していようが、勤怠記録が残っていれば証拠として十分です。
仕事に関するメールやLINEの送信履歴
上司や取引先に送ったメールやLINEの送信履歴も証拠になります。メール送るだけでも仕事していることと変わりません。また、仕事が終わったことを家族に伝えるメールも、証拠として認められる場合があります。家族にメールを送る場合は、毎日繰り返すことがポイントです。
たとえ残業が発生しない日であっても、継続して送ることに意味があります。可能であればどのような作業をしていたのか、加えておくとさらによいでしょう。
職場のパソコンのログイン履歴
個人のアカウントで職場のパソコンを使用していた場合、ログイン履歴が残業の証拠になります。または、会社から個人用でパソコンを提供されている場合も同様です。個人のアカウントがある場合は、IDから個人が特定されますので、あなたが働いていたことがわかります。
会社からパソコンを提供されている場合は、あなた以外の人が使っていないことが重要です。日常的に他の人も使用している場合は、証拠として認められないでしょう。
職場に設置された防犯カメラの録画
職場に設置された防犯カメラの録画に自分が映っている場合は、証拠になります。自分が録画に映っているところを、写真や動画で収めておきましょう。本来は、防犯カメラの録画を証拠として提供したいですが、会社が保有しているケースがほとんどです。この場合、会社が防犯カメラの録画を隠蔽したり、提出してくれなかったりする恐れがあります。
そのため可能であれば、事前に証拠として確保しておくといいでしょう。
残業した証拠を残すときの注意点
残業した証拠を残すときは以下の2つに注意してください。
- 記録に残すときは詳しく記載する
- 未払いの残業代には時効がある
記録に残すときは詳しく記載する
業務日報やメモ、メール、LINEなどに残業したことを記録として残す場合は、できるだけ詳細に記載しましょう。記載している情報量が少なすぎる場合は、証拠として認められないケースがあります。裁判官に証拠として認めてもらうには「客観性」が重要です。
例えば、出退勤を記録する場合でも「出勤:9:00、退勤:21:00」と記載するのではなく、「出勤:9:03、退勤:21:04」など分単位で記載するほうが客観性が高くなります。また、残業した日だけでなく毎日詳細に記載していることも大切です。
未払いの残業代には時効がある
未払いの残業代を請求する場合は、時効に気をつけましょう。残業代請求権の時効は3年です。労働基準法第115条では、「5年」と記載されていますが、附則143条3項により、当面の間は3年となっています。将来的には5年になる可能性が十分にあります。
残業した証拠を長年保有していても、3年以内に請求しなければ意味がなくなってしまうので、注意しましょう。
職場にタイムカードがなくても認められた判例
職場にタイムカードがなくても、認められた判例がいくつかありますので、紹介します。
- スタジオツインク事件(東京地判平成23・10・25労判1041号69頁)
- ゴムノイナキ事件(大阪高判平成17・12・1労判933号69頁)
スタジオツインク事件(東京地判平成23・10・25労判1041号69頁)
この事件は従業員が退職後に、未払いの残業代を請求したものです。この事件では、会社が明白な理由もなく、残業に関する証拠を破棄し、提出しようとしませんでした。そこで労働時間の判断として使われたのは、従業員が出退勤を記録したメモです。会社が残業の証拠を提出しない場合、従業員のメモから算出した労働時間であっても「合理的で公平であるもの」として判断されます。
ゴムノイナキ事件(大阪高判平成17・12・1労判933号69頁)
この事件は、従業員が深夜残業や休日出勤における残業代を請求したものです。従業員はタイムカードによる勤怠記録がなく、終業時刻を裏付ける証拠がありませんでした。残業や休日出勤の際には、「休日出勤・残業許可願」という書類の提出を求められていましたが、日常的に残業が発生するため誰も提出していません。
また、会社も「休日出勤・残業許可願」を提出していないことを知っていましたが、放置していました。従業員の勤怠記録を適切に管理していなかったことは明白であり、会社の責任です。従業員が提出した証拠から終業時間を推測し、労働時間として認められました。
この他にも「日本コンベンションサービス事件」や「大虎運輸事件」、「ゆうしん事件」では、残業代を請求した期間にタイムカードの打刻がありませんでしたが、提出した証拠などにより労働時間として認められました。
職場にタイムカードがない!残業代を請求する手順は?
未払いの残業代を請求するときは、以下の手順で行います。
- 1.残業時間を証明する証拠を集める
- 2.労働基準監督署に相談する
- 3.弁護士に相談する
- 4.会社に交渉または労働審判を申し立てる
1.残業時間を証明する証拠を集める
未払いの残業代を請求するときは、残業時間を証明する証拠を集めましょう。証拠になるものは以下の通りです。
- 業務日報
- 職場で勤怠記録しているもの
- 仕事に関するメールやLINEの送信履歴
- 職場のパソコンのログイン履歴
- 職場に設置された防犯カメラの録画
2.労働基準監督署に相談する
残業代が払われないことは労働基準法違反ですので、労働基準監督署に相談しましょう。労働基準監督署に相談すれば、会社に調査が入り、違反行為がないか確かめます。違反行為が認められれば、会社に対して是正勧告を行います。是正勧告を受けた会社は、指示に従い、労働環境を見直すのが一般的です。
しかし、会社によっては是正勧告を無視する場合があります。是正勧告に強制力はないので、従わないことも可能です。この場合は、弁護士に相談して会社に交渉または労働審判を申し立てましょう。
なお、労働基準監督署は行政機関ですので、直接未払いの残業代を回収してくれるわけではありません。また、証拠がなかったり、他に優先すべき事案があれば動いてもらえない場合もあるので、注意しましょう。
3.弁護士に相談する
弁護士であれば、労働者に代わって未払いの残業代を請求してくれます。どのように残業代を回収すればいいのか、アドバイスがもらえます。弁護士といってもさまざまな人がいますので、労働問題に強い弁護士に依頼しましょう。依頼するときは、実績や信頼性を確かめた上で依頼してください。
4.会社に交渉または労働審判を申し立てる
一般的には会社との交渉から始まります。労働者の主張に会社が納得すれば、未払いの残業代を支払ってもらえます。用意した証拠が乏しい場合は、交渉の場で会社に開示してもらうことも可能です。
会社が交渉に応じないときは、労働審判を申し立てましょう。労働審判は原則3回以内に終わるため、迅速に解決できます。どちらかが労働審判で不服がある場合は、訴訟手続きへ移行します。
職場にタイムカードがないときのよくある質問
職場にタイムカードがないときのよくある質問を見ていきましょう。
- 会社が残業の証拠を持っているときはどうするの?
- タイムカードがない職場は退職すべき?
- 職場にタイムカードがないのはなぜ?タイムカードがないメリットは?
- 労働時間とは?具体的にどのような時間?
会社が残業の証拠を持っているときはどうするの?
残業の証拠を会社が持っている場合は、開示を求めます。まずは、自身で会社に開示を求めましょう。応じない場合は、弁護士に相談し、弁護士から開示を請求するのが無難です。訴訟を提起して開示を求めることも可能ですが、まずは話し合いでことが済むように進めましょう。
タイムカードがない職場は退職すべき?
タイムカードがないからといって退職すべきではありません。タイムカード以外でも勤怠記録が適切に管理されていれば、正常な会社だといえます。しかし、タイムカードがないことを理由に勤怠記録が管理されていなかったり、残業代を支払ってもらえない場合は、退職・転職を検討しましょう。
労働基準監督署などに相談し、労働環境が改善されればよいですが、改善されない場合は退職すべきです。労働環境の悪い会社で働き続けても、メリットがありません。逆に長時間労働や残業代の未払いなど、自分にとって不利益が生じる可能性のほうが高いです。
職場にタイムカードがないのはなぜ?タイムカードがないメリットは?
タイムカードを導入しない理由はいくつかあります。例えば、以下の通りです。
- デジタル化により紙ベースのタイムカードを廃止した
- リモートワークや在宅勤務などが多くタイムカードが適さなくなった
- コストの削減のため
デジタル化が進んでいるため、紙ベースタイムカードから、スマホやタブレットで管理する方法に変更した会社も少なくありません。デジタル化することで、集計や管理がしやすくなるなどのメリットがあります。
また、会社によってはタイムカードの必要価値が減っている場合もあります。タイムカードは必ずしも必要ではないので、会社によって勤怠管理はさまざまです。
労働時間とは?具体的にどのような時間?
労働時間とは、始業時刻から終業時刻までの時間の内、休憩時間を除いた時間です。当然、残業時間も含まれます。休憩時間は労働から解放され自由な時間ですので、労働時間に含まれません。
また、労働時間は「使用者の指揮命令下に置かれている時間」でもあります。つまり、朝早く出勤して始業時間よりも早く働いていたとしても、働いていることを会社が認知していなければ労働時間とは認められません。
労働者が時間外労働していることを、会社が知っているかどうかが重要です。
まとめ
職場にタイムカードがないからといって、違法になるわけではありません。大切なのは、労働時間を適切に把握できているかどうかです。労働時間を適切に把握できていない会社では、労働者のメモやメールの送信履歴、パソコンのログイン履歴などが残業をした証拠になります。
タイムカードがなかったとしても、証拠を集めておけば労働時間と認められるケースがあります。そのため、未払いの残業代を請求するときは、残業した証拠を集めておきましょう。
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