いじめや嫌がらせなどのパワハラがあった場合、「パワハラの証拠集め」をしましょう。パワハラ被害を訴える場合には、「パワハラ被害にあった証拠」が必須です。証拠がなければパワハラとして認めてもらえない可能性があります。
本記事では、パワハラの証拠の集め方やパワハラの証拠集めのポイントについて解説します。
・パワハラの証拠として有効なものは、音声の録音、動画、メールやチャット、目撃者の証言など
・パワハラの証拠集めにおける注意点は、加害者にバレないようにする、証拠集めにこだわりすぎないこと
目次
パワハラの証拠集めが必要な理由
パワハラの証拠集めが必要な理由は、パワハラがあったことを第三者に認知してもらうためです。パワハラの証拠が一切なければ、第三者はパワハラがあったのか判断できません。パワハラの加害者がパワハラを否定した場合、事実確認が必要になります。
このときにパワハラの証拠があれば、会社や加害者に慰謝料を請求することが可能です。また、証拠があれば、法的手段に講じた際に判決が有利に働きやすくなります。そもそも証拠がない場合は、法的に争うことが難しいです。
たとえ法的手段をとらなかったとしても、パワハラの証拠がなければ、労働組合や総合労働相談コーナーに相談したときに、有効的に動いてもらえません。
つまり、社内外の相談窓口に相談するときや法的手段をとるなど、アクションを起こすときにはパワハラの証拠が必要になります。
パワハラの証拠として有効なもの8つと集め方
パワハラの証拠として有効なものは、以下の8つです。
- 1.パワハラの音声
- 2.パワハラの動画
- 3.パワハラのメールやLINEのチャット
- 4.パワハラにあたる書面
- 5.被害者のメモや日記
- 6.他の従業員による目撃証言
- 7.別の被害者による証言
- 8.診断書
パワハラの証拠集めをするときは、この8つを意識しましょう。
1.パワハラの音声
上司からの暴言や罵倒などの音声を録音できれば、有効な証拠になります。ボイスレコーダーや小さいペン型のものであれば、相手にバレずに録音できます。パワハラが日常的に横行している場合は、肌身離さず携帯しておきましょう。
パワハラの音声を録音するときは、以下の点を意識してください。
- パワハラの加害者の名前を呼ぶ
- 録音した音声は編集しない
- 録音した日時や場所を記録しておく
- 1回だけではなく複数回、記録する
- パワハラを録音したいために、相手を挑発しない
- 録音だけでは読み取れない情報は、別途メモなどに記しておく
パワハラはいつ起きるかわかりません。そのため、いつでも録音できるように準備しておきましょう。パワハラの加害者の音声だけでなく、会社にパワハラを相談するときも録音しておくといいでしょう。
パワハラを相談しても適切な対応を取ってもらえないときは、有効な証拠になります。パワハラを録音するときは、会社の許可は必要ありません。ただし、執拗に録音しないように気をつけましょう。
2.パワハラの動画
殴る、蹴るなどの暴行を受けている動画は、パワハラの証拠として有効です。ただし、音声の録音と違い、動画の撮影は相手にバレやすいので注意しましょう。パワハラの動画を証拠として入手するには、以下の方法があります。
- 同僚などに頼んでこっそり撮ってもらう
- あらかじめカメラを隠し置いておき撮影する
- 会社の防犯カメラからデータを入手する
- メガネやペンなどに備え付けられた小型カメラを利用する
暴行を受けた動画が撮れなかった場合でも、負傷した箇所があれば動画や写真に撮っておきましょう。音声の録音と同様で、日時や場所など補足情報を入れておくと証拠の有効性が高まります。
3.パワハラにあたるメールやLINEのチャット
メールやLINEのチャットでもパワハラは起こりうることです。不快だからといって削除せずに文面を保管しておきましょう。相手の操作によってメッセージが消える恐れのある場合は、事前にスクリーンショットや写真を撮り、証拠として残しておきましょう。
4.パワハラにあたる書面
パワハラにあたる業務命令や部署異動があった場合、その書面も証拠として有効です。書面は改ざんや偽造が難しいことから、裁判所でも重要性の高い証拠とされています。
このような書面は写真を撮ったり、コピーを印刷したりして保管しておきましょう。
5.被害者のメモや日記
録音や動画などのパワハラを直接示す証拠の補足情報として、メモや日記に記しておくと証拠として有効になる可能性があります。とくに陰湿なパワハラほど、証拠が残りにくいです。決定的な証拠がない場合は、証人尋問によって判決が下されるケースがあります。
この場合、整合性のある証言が大切です。メモや日記に記しておくと、記憶として残されますので客観的に事情を説明できます。ただし、メモや日記の書き方・状態によっては信用性が欠ける場合があります。メモや日記の信用性について、以下の表を参考にしてください。
信用性が高いもの | 信用性が低いもの |
---|---|
毎日継続的に書かれている | 被害にあった日よりかなり時間が経っている |
日時や場所、状況が詳細に書かれている | 一度にまとめて書かれている |
消えない(修正できない)ボールペンで書かれている | 断片的なメモで具体性がない |
パワハラが問題になる前から書かれている | 鉛筆など修正できるもので書かれている |
メモや日記は、具体的かつ継続的に書かれていることが大切です。「パワハラかな?」と思ったときから、毎日書き記しておきましょう。
6.他の従業員による目撃証言
パワハラされているところを、他の従業員が見ていた場合、その従業員に証言してもらうことで証拠となります。ただし、パワハラの録音や動画などの物的証拠に比べると、信用性は低いです。
ブラックな上司は周りを気にせず、罵声や暴言といったパワハラをすることが多く、目撃者に協力してもらえれば証拠として有効です。あなたが日記やメモに記していた内容と、目撃者の証言が一致する場合はパワハラとして認められやすいでしょう。
公の場でパワハラを受けたことがある人は、目撃者を探し、協力してもらえるように頼んでおきましょう。
7.別の被害者による証言
あなたと同じように同じ相手からパワハラを受けている被害者がいれば、証言してもらうことで証拠になります。ただし、必ずしも別の被害者が協力的とは限りません。
中にはパワハラを公にしたくない人もいます。公にすることで、パワハラがエスカレートするのではないかと懸念しているのです。
また、協力を強要してはいけません。あなたが協力を強要すれば、あなたの行動がパワハラにあたる可能性があります。そのため、別の被害者の気持ちを汲み取りながら協力を促しましょう。
8.診断書
パワハラが原因で身体の負傷や精神疾患などの苦痛を受けた場合は、医師に診断を受け診断書をもらいましょう。精神的苦痛は目に見えないものなので、医師の診断書をもらうことで証拠になります。
医師の診断書をもらう場合は、パワハラがあった日と近いようにしてください。パワハラのあった日と、診断書をもらった日が遠い場合、因果関係を示すには不十分だと判断される可能性があります。
パワハラの証拠集めするときのポイント
パワハラの証拠集めするときのポイントは、以下の通りです。
- 業務上で必要な指導であるか
- 他の従業員と扱いが異なるか
- パワハラが継続的に行われているか
それぞれについて見ていきましょう。
業務上で必要な指導であるか
パワハラの証拠集めするときは、業務上で必要な指導であるかどうかを判断しましょう。仮に必要範囲内の指導であれば、パワハラの証拠を集めたとしてもパワハラとして認められません。
また、加害者から「業務上で必要な指導だ」と主張されたからといって、あきらめてはいけません。これは、加害者にありがちな言い訳です。業務上で必要な指導であったとしても、過度な指導はパワハラにあたります。
例えば以下のような事例は、パワハラにあたります。
- 必要な指導を受けている最中に暴言や暴力を受ける
- 作業の内容が合っているのに必要以上な厳しい指導がある
本当に必要な指導なのかを見極め、過度な指導を受けていると感じた場合はパワハラとして証拠を残しましょう。
他の従業員と扱いが異なるか
他の従業員と扱いが異なる場合は、パワハラを受けている可能性があります。同僚などにヒアリングしながら、扱いに差があるか調査しましょう。例えば以下のような扱いを受けている場合は、パワハラにあたります。
- 同僚に比べて仕事が全く割り振られない
- 自分だけ新年会や忘年会などに呼ばれない
- 自分と話すときだけ口調が強くなりそっけない
- 自分だけ孤立した場所で仕事をさせられる
- 自分だけ打ち合わせや会議に参加できない
上記のような他の従業員との扱いが異なる場合は、証拠として集めておきましょう。同僚に協力してもらい、証言を得られればさらに効果的です。
パワハラが継続的に行われているか
パワハラは1度きりで終わることは珍しく、多くのケースで日常的に行われます。日常的に行われているパワハラを証明するためには、1回の証拠では不十分です。繰り返し行われている証拠がなければ、悪質性を伝えられません。
そのため、1回の証拠で満足するのではなく、継続的に行われていることがわかる証拠を集めましょう。パワハラの証拠はいくつあっても構いません。
パワハラの証拠集めにおける注意点
パワハラの証拠集めにおける注意点は、以下の通りです。
- パワハラの証拠集めを加害者にバレてはいけない
- パワハラの証拠集めにこだわりすぎない
- 会社が保有する証拠に頼らない
それぞれについて見ていきましょう。
パワハラの証拠集めを加害者にバレてはいけない
当然のことですが、パワハラの証拠集めしていることを加害者にバレてはいけません。加害者にバレてしまうと、証拠の隠蔽や破棄される可能性があります。また、加害者が逆上してパワハラが悪化するケースも少なくありません。
1度バレてしまうと加害者が警戒するため、証拠が集めにくくなってしまいます。録音や録画する場合は、細心の注意を払いながら、バレないように気をつけましょう。
パワハラの証拠集めにこだわりすぎない
パワハラを認知してもらうには証拠が必要です。しかし、証拠集めにこだわりすぎて、他の従業員に迷惑をかけてはいけません。例えば、パワハラを動画に収めたいからといって、社内で無理やり動画を撮影する行為は、企業の秩序を乱すことです。
場合によっては、懲戒処分を下される可能性があります。有力な証拠が欲しいからといって、その証拠にこだわらず、他の証拠を集められないか検討してみましょう。
会社が保有する証拠に頼らない
すべての会社がパワハラ問題解決に向けて、協力的とは限りません。会社によっては相談しても対応してもらえない、防犯カメラのデータなど会社が保有する証拠を求めても応じてもらない場合があります。
本来であれば、会社は労働者の働きやすい環境を構築するために配慮する義務(安全配慮義務)を負っています。そのため、パワハラを防止することも「安全配慮義務」を守ることの一環です。
会社がパワハラを認めてしまうと、安全配慮義務を怠っていることになります。被害者から損害賠償を請求されないように、反論してくる場合もあるでしょう。
このように、会社は必ずしも協力的とは限らないため、会社が保有する証拠に頼ってはいけません。被害者本人が、証拠を集めて確保しておきましょう。
パワハラの証拠がないときはどうすればいい?
パワハラの証拠がない人もいます。パワハラの証拠がないときは、どうすればいいのか以下の3つを見ていきましょう。
- 今からでもパワハラの証拠を集める
- 会社に相談して話し合いで解決する
- 社外の相談窓口に相談する
今からでもパワハラの証拠を集める
パワハラの証拠がなければ、何をするにも有利な状況に立てません。今からでも遅くないので、少しずつパワハラの証拠を集めましょう。パワハラの証拠がないと思っていても、見逃しているだけかもしれません。
例えば、LINEのメッセージを見直し、パワハラにあたるようなメッセージが残っていないか確かめましょう。また、社内の防犯カメラを確認できる場合は、パワハラ行為が映っていないか確かめることも1つの手です。
公の場で暴言などを吐かれたことがある人は、目撃者がいないか探すことも大切です。音声の録音などをすぐに用意できなくても、上記のような例を探せば証拠が残っている場合があります。
たとえ、有力な証拠といえなかったとしても、何もないよりかはマシです。すぐに用意できそうな証拠がないか探してみましょう。
会社に相談して話し合いで解決する
パワハラの度合いにもよりますが、軽度なものであれば社内で話し合い解決するのが一般的です。会社にパワハラ被害を相談すると、会社が調査し、再犯防止のために手立てを講じます。
例えば軽度なパワハラであれば、会社が加害者に注意・指導したり、部署を異動させたりなどの措置を取ります。または加害者・被害者・会社の3者で話し合いをし、解決へ導くのが一般的です。
パワハラの証拠があることに越したことはないですが、証拠がなかったとしても解決するケースは多くあります。
社内外の相談窓口に相談する
パワハラの証拠がなく困っているときは、社内外の相談窓口に相談しましょう。上記の例のように、証拠がなかったとしても話し合いで解決するケースもあります。
「社内でパワハラにあっていてどうすればいいかわからない」といった内容で、相談してみましょう。社外へ相談する場合は、労働組合や総合労働相談コーナー、弁護士などがあります。相談することで解決策に向けてのアドバイスがもらえます。
パワハラの証拠集めに関するよくある質問
パワハラの証拠集めに関するよくある質問は、以下の通りです。
- パワハラの証拠集めの際に録音・録画することは違法ですか?
- パワハラについて会社に相談するとどのような対処をしてくれますか?
- パワハラにはどのような種類がありますか?
それぞれについて見ていきましょう。
パワハラの証拠集めの際に録音・録画することは違法ですか?
パワハラの証拠集めの際に録画・録音することは違法ではありません。そのため、加害者とのやりとりでボイスレコーダーなどを使用しても構いません。
会社によっては、就業規則などで録音や録画を禁止していることがあります。この場合であっても、パワハラの証拠のためであれば録音や録画しても問題ありません。
ただし、会社から再三注意されているにもかかわらず、無視して録音を続けた場合は、懲戒処分に問われる可能性があります。会社から禁止命令が出た場合は、控えるようにしましょう。
パワハラについて会社に相談するとどのような対処をしてくれますか?
パワハラ被害を会社に相談し、会社がパワハラを認めた場合、以下のような対処をしてもらえます。
- 加害者への注意・指導・異動などの処分
- 再発防止に向けての処置
- 被害者のケア
本来は、上記のような対応を取ることが会社の義務です。しかし、現実は異なります。厚生労働省が発表した「令和5年度職場のハラスメントに関する実態調査」によれば、実際の会社の対応は以下の通りです。
順位 | 会社の対応 | 割合 |
---|---|---|
1位 | とくに何もしなかった | 53.2% |
2位 | あなたの要望を聞いたり、問題を解決するために相談にのってくれた | 24.4% |
3位 | あなたに事実確認のためのヒアリングを行った | 18.0% |
4位 | あなたの上司、同僚や部下に事実確認を行った | 14.0% |
5位 | 行為者に事実確認を行った | 12.2% |
6位 | 相談したことを理由としてあなたに不利益な取扱いをした | 6.1% |
7位 | その他 | 2.3% |
上記の結果を見てわかる通り、パワハラを認知した後の会社の対応は「とくに何もしない(53.2%)」が一番多くなっています。そのため、会社に相談しても何も対応してもらえない場合は、社外の相談窓口に相談しましょう。
パワハラにはどのような種類がありますか?
そもそもパワハラとは、以下の3つに定義されています。
- 優越的な関係に基づいて行われること
- 業務の適正な範囲を超えて行われること
- 身体的若しくは精神的な苦痛を与えること、又は就業環境を害すること
この3つに当てはまるものは、パワーハラスメント(パワハラ)だと厚生労働省が定義しています。具体的には、6つの分類に分けられており、例をもとにどのような行為がパワハラにあたるか見ていきましょう。
種類 | パワハラにあたる具体的な行為 |
---|---|
身体的な攻撃 | ・指導に熱が入り頭を叩いた・肩を叩いた ・繰り返しミスする部下に怒りを感じ、蹴った・殴った |
精神的な攻撃 | ・「アホ」「給料泥棒」「のろま」「役立たず」などの暴言を吐く ・ため息をついたり、物に当たったりなど威圧的な態度を取る |
人間関係からの切り離し | ・ある社員だけ意図的にミーティングに参加させない ・仕事を分担せず、プロジェクトから外す |
過大な要求 | ・何も指導せずに新しい業務を与える ・自分の業務に追われているのに、他の社員の業務を押し付ける |
過少な要求 | ・仕事をなにも与えない ・アルバイトでもできるような掃除や片付けなどを与える |
個の侵害 | ・飲み会やデートなどを執拗に誘う ・休日の過ごし方や配偶者のことなどプライベートを詮索する |
パワハラにあたるのか迷ったときは、上記の表を参考にしてください。
まとめ
パワハラにあっていることを第三者に認知してもらうために、パワハラの証拠集めが必要です。
パワハラの証拠は断片的なものではなく、継続的かつ具体的なものを用意しましょう。日時や場所、加害者の名前など詳細なことまで分かればより有効的です。ひとりで抱え込まず、パワハラについて相談したいことがあれば、社内の相談窓口や労働組合、弁護士などに相談してください。
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