「残業を断るとクビになる?」「用事があるから残業を断りたい」など、残業を断ってもいいのか悩んでいる人は多いのではないでしょうか。結論からいえば、原則残業を断ることができません。しかし、正当な理由があれば残業は断れます。
本記事では、残業を断るための正当な理由や残業を強要されたときの対処法について解説します。
・体調不良や妊娠中、育児、介護、など正当な理由があれば残業を断ることは可能
・36協定や雇用契約書で定めている場合は、(正当な理由がなければ)残業を断れない
・会社によっては、残業を断ると懲戒処分になる場合がある
・残業を強要されたときは、労働基準監督署や弁護士に相談するか、転職を検討しよう
残業を断るための正当な理由は5つ!
原則、残業を断ることはできませんが、正当な理由があれば断ることが可能です。残業を断るための正当な理由は、以下の5つです。
- 体調不良の場合
- 妊娠中・出産後から1年未満の場合
- 育児・介護が必要な場合
- 残業すると違法になる場合
- 業務上残業が必要ない場合
それぞれについて見ていきましょう。
体調不良の場合
風邪や頭痛などの体調不良やケガをしている場合は、残業を断ることが可能です。労働契約法第5条では、会社は労働者の健康に配慮しなければならないと定めています。
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
引用元:労働契約法 | e-Gov 法令検索
また、過去の判例でも、労働者が眼球疲労を理由に残業を断ったため会社に解雇され、不当な解雇だと訴えたところ、解雇が無効になった事件があります(トーコロ事件 東京高等裁判所判決平成9年11月17日労判729号44頁)。
体調不良の場合や、残業命令が多く健康を害する可能性がある場合のときは、残業を断ることが可能です。会社に診断書を提示し、残業できないことを伝えましょう。
妊娠中・出産後から1年未満の場合
現在、妊娠している人や出産から1年未満の人は、残業を断ることが可能です。労働基準法第66条では、妊娠している人や出産から1年未満の人(妊産婦)が残業を断った場合、会社は残業をさせられないと定めています。
使用者は、妊産婦が請求した場合においては、第三十三条第一項及び第三項並びに第三十六条第一項の規定にかかわらず、時間外労働をさせてはならず、又は休日に労働させてはならない。
引用元:労働基準法 | e-Gov 法令検索
また、残業だけでなく深夜業(22時から翌日5時まで)も働かせてはいけないと定めています。妊産婦の人は、会社から残業命令があったとしても断りましょう。
育児・介護が必要な場合
子どもの育児や両親の介護が必要な人は、残業を断ることが可能です。育児介護休業法第16条では、以下の2つの場合は会社が残業を要求できないと定めています。
- 3歳未満の子どもの育児が必要な場合
- 要介護状態にある家族の介護が必要な場合
また育児介護休業法第17条では、小学校入学前の子どもの育児が必要な場合、月24時間、年間150時間を超えた残業は断ることが可能だと定めています。ただし、以下の場合は断れませんので注意しましょう。
- 事業の正常な運営を妨げる場合
- 会社に雇用されてから1年未満の労働者である場合
- 1週間の所定労働日数が2日以下の場合
3歳未満の子どもの育児が必要な場合や、要介護状態にある家族の介護が必要な場合は、会社から残業を要求されても断れますので、覚えておきましょう。
残業すると違法になる場合
残業をすると違法になるケースとして代表的なのが、36協定の上限時間を超える場合です。労働基準法第32条では、「1日8時間、週40時間」(法定労働時間)を超える労働をさせてはならないと定めています。
法定労働時間を超えて労働者に働かせる場合は、労働者と36協定を結ばなければなりません。36協定では、「1日」「1ヶ月」「1年」の単位で、労働者と残業時間の上限を定める必要があります。この上限を超えて働かせることは、法律違反になりますので、会社から残業命令があったとしても断ることが可能です。
36協定の上限時間を超えるケース以外にも、残業すると違法になるケースがあります。以下のようなケースは、残業すると違法になります。
- 36協定を労働者と契約していない
- 月間45時間を超える残業(36協定を労働者と締結している)
- 月間100時間を超える残業(特別条項付き36協定を労働者と締結している)
- 就業規則に残業命令についての規定がない
- 残業時間としてみなされない残業(サービス残業)
現在の残業時間を確認して、上記のような条件に当てはまる場合は、残業命令があったとしても断りましょう。
業務上残業が必要ない場合
36協定の上限時間内であっても、業務上必要のない残業は断ることが可能です。そもそも業務上必要のない残業は、あなたへの嫌がらせの可能性があります。嫌がらせによる残業であれば、断ることは可能です。もちろん嫌がらせではない場合もあります。
業務上の必要性については、あなたの判断で決めてはいけません。会社にはさまざまな作業がありますので、一概に不要かどうかを判断することが難しい場合もあります。
そのため、「業務上不要な残業だ」と思ったときは、労働基準監督署や弁護士などに相談し、必要性の有無を確認しましょう。
残業を断ればクビ?残業を断れない場合もある
正当な理由があれば残業は断れると説明しましたが、原則会社の残業命令には従わなくてはいけません。断れない残業や断った場合のペナルティについて見ていきましょう。
- 残業を断れない場合がある
- 残業を断ると減給やクビになる可能性がある
残業を断れない場合がある
残業命令は、以下の2つの条件を満たす場合、断れません。
- 労働者と会社の間で36協定が締結されている
- 就業規則で「残業命令には従わなければならない」といった内容が規定されている
先に述べたように、会社は法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える残業を労働者に命じてはなりません。法定労働時間を超える場合は36協定の締結が必要です。
また、36協定が締結しているだけでは残業を命じられません。就業規則で「残業命令には従わなければならない」といった内容を規定しておく必要があります。上記の2つの条件を満たしている場合は、正当な理由がない限り残業を断ることができません。
ただし、例外として36協定が締結されていなくても残業命令が認められる場合があります。会社は災害時や緊急時の場合、労働基準監督署に許可を得ることで、残業を命令できます。なお、労働基準監督署へは事後報告でも構いません。
残業を断ると減給やクビになる可能性がある
残業を断ると減給やクビになる可能性があります。上記で述べた通り、「36協定が締結されている」「就業規則で残業命令には従わなければならないこと規定されている」場合は、残業は業務命令にあたります。
残業を断ることは、業務命令に反することになるので懲戒処分になる可能性があるのです。懲戒処分では減給や降格、最悪の場合は懲戒解雇(クビ)になります。実際に、残業命令を断ったことで懲戒解雇になった事例もあります(日立製作所武蔵工場事件・最一小判平成3年11月28日)。
ただし、残業を一度断ったからといってクビになることはありません。ただし、何度も残業を断ったり、無視して帰ったりしていれば懲戒解雇になります。
残業を強要され断りたいときの5つの対処法
残業を強要され、断りたいときの対処法は、以下の5つです。
- 1.仕事の効率化を図る(事前の対策)
- 2.会社と交渉する
- 3.労働基準監督署に報告する
- 4.弁護士に相談する
- 5.転職を検討する
それぞれについて見ていきましょう。
1.仕事の効率化を図る
残業したくない人は、通常業務の時間内に作業を完結させることです。今日すべき作業が終わっていれば、残業は発生します。仕事の効率化を図り、スピードを上げることを意識しましょう。仕事のスピードを上げるには、以下の方法を試してください。
- 仕事の優先順位を決める
- やるべきことを決める(無駄な作業はしない)
- 仕事の目的を理解する
- 作業の終了時間を定める
- 仕事をすべて抱え込まず周りに割り振る
- できない仕事を引き受けない
- 自分の技術を高める
単に作業スピードが遅くて残業が発生している場合は、上記の対策を講じることで残業を強要されることが少なくなります。
2.会社と交渉する
残業を強要されたとしても、会社と交渉することで断れる可能性があります。例えば、残業する日を変えてもらったり、別の日に半日出勤したりなど、交渉してみましょう。また、同僚などにその日の残業を変わってもらうことも1つの手です。
3.労働基準監督署に報告する
労働基準監督署は、賃金、労働時間、解雇などの法令違反について相談したいときにおすすめです。サービス残業や違法な長時間残業を強要されるなど、違法性が強い場合は会社に対して調査を行ってくれます。調査の結果、問題があれば指導や是正勧告してもらえます。
労働基準監督署に報告する場合は、違法な残業を強要された証拠を集めておきましょう。証拠がなければ、動いてもらえない場合があるからです。残業を強要された音声の録音や、タイムカードの打刻記録、実際に働いている様子がわかる動画(防犯カメラの映像)などが証拠として有効です。
基本的に労働基準監督署が対応してくれることは、指導や勧告です。しかし、指導や勧告は法的拘束力がありませんので、会社が無視をして従わないケースもあります。
4.弁護士に相談する
弁護士に相談すれば、残業の強要に違法性があるか判断してもらえます。また、弁護士であれば交渉だけでなく法的手段を講じることも可能です。「未払いの残業代を取り返したい」「不当な解雇にあった」といった人におすすめです。
弁護士に相談する場合は、労働問題への対応実績が多い弁護士(法律事務所)を選びましょう。弁護士によっても得意分野が異なりますので、弁護士であれば誰でもよいわけではありません。費用もかかりますので、実績や費用などを考慮して、相談先を選びましょう。
5.転職を検討する
慢性的に残業を強要される場合は、転職を考えることも1つの手です。とくに指示に従わなければ「解雇するぞ」と脅されたり、暴力や暴行などパワハラがあったりする場合は、転職をおすすめします。
転職先を検討するときは、残業時間などの労働環境についてしっかりと情報を集めておきましょう。同じミスをしないためにも、残業の少ない会社・職種を選んだり、転職エージェントを活用したりなど、対策しましょう。
残業に関するよくある質問
残業に関するよくある質問は、以下の通りです。
- 残業時間が多い仕事は?
- 労働者には残業を断る権利があるのか?
- 用事や私用があるときに残業を断るには?
- 派遣社員は残業を断ることが可能?
それぞれについて見ていきましょう。
残業時間が多い仕事は?
業種によって残業時間の長さが異なります。残業時間を減らしたい人は、残業時間が比較的短い業種へ転職しましょう。
産業 | 残業時間(時間外労働時間) | 総労働時間 |
---|---|---|
運輸業・郵便業 | 21.4時間 | 162.8時間 |
電気・ガス業 | 15.0時間 | 154.4時間 |
情報通信業 | 14.8時間 | 156.5時間 |
金融業・保険業 | 12.8時間 | 148.5時間 |
製造業 | 12.7時間 | 147.3時間 |
鉱業・採石業等 | 12.2時間 | 153.7時間 |
学術研究等 | 12.0時間 | 147.0時間 |
不動産・物品賃貸業 | 11.5時間 | 147.7時間 |
建設業 | 11.4時間 | 151.1時間 |
その他のサービス業 | 10.0時間 | 135.7時間 |
平均 | 9.3時間 | 132.6時間 |
参考元:厚生労働省「毎月勤労統計調査 令和6年8月分結果速報」
厚生労働省が発表した「毎月勤労統計調査 令和6年8月分結果速報」によれば、残業時間が一番長い業種は「運輸業・郵便業(21.4時間)」、次いで「電気・ガス業(15時間)」「情報通信業(14.8時間)」となっています。
逆に「医療・福祉(4.8時間)」や「教育,学習支援業(5.6時間)」「飲食サービス業等(5.6時間)」などは、残業時間が少ないです。
また、残業時間の少ないホワイト会社を調べたいときは、経済産業省の「健康経営優良法人2024」や「非営利一般社団法人安全衛生優良企業マーク推進機構」を参考にしましょう。
労働者には残業を断る権利があるのか?
労働者には残業を断る権利があります。正当な理由がある場合は、残業を断ることが可能です。正当な理由は、以下の5つです。
- 体調不良の場合
- 妊娠中・出産後から1年未満の場合
- 育児・介護が必要な場合
- 残業すると違法になる場合
- 業務上残業が必要ない場合
これらの理由でなくても、残業を断りたいときは会社に交渉してみましょう。
用事や私用があるときに残業を断るには?
基本的には上記で説明した「正当な理由」があれば断ることが可能です。しかし、正当な理由がなく「友達と飲み会がある」「見たい番組がある」など用事や私用を理由に、残業を断りたい人もいるでしょう。用事や私用があるときに残業を断りたい人は、以下の断り方がおすすめです。
- 残業する日を別の日に変えてもらう
- 歯医者や眼科など病院の予約がある
- 野球やサッカーなどクラブチームも予定がある
- 家族の誕生日
- 親族が訪ねてくる
あらかじめ用事の予定などが決まっている場合は、上司に事前に伝えておくと残業を断りやすくなります。
派遣社員は残業を断ることが可能?
派遣社員も正社員と同様で残業を断ることが可能です。
- 残業を断るための正当な理由がある
- 36協定を締結していない
- 雇用契約書や労働条件通知書などに、残業に関する規定がない
上記のような場合であれば、残業を断れます。
まとめ
残業を断るためには正当な理由が必要です。
- 体調不良の場合
- 妊娠中・出産後から1年未満の場合
- 育児・介護が必要な場合
- 残業すると違法になる場合
- 業務上残業が必要ない場合
上記のような理由であれば、残業を断れます。正当な理由があるにもかかわらず、残業を強要される場合は、労働基準監督署や弁護士に相談しましょう。
正当な理由もなく残業を断ると、懲戒処分を科される可能性があります。そのため、むやみに残業を断るのではなく、必要に応じて残業を断りましょう。
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