移動時間(出張・通勤など)は労働時間に含まれるのか?具体的なケースを紹介!

出張や通勤などの移動時間は、労働時間に含まれるのか気になる人も多いのではないでしょうか。移動時間が労働時間に含まれる場合、実際の残業時間が大きく異なります。

結論からいえば、移動時間が労働時間に含まれるかどうかは、状況次第です。

移動中も使用者の指揮命令下にあるかがポイントになるため、具体例を参考にしながら判断してください。本記事では、移動時間が労働時間に含まれるのか、ケースに分けて紹介しますので、参考にしてください。

移動時間が労働時間に含まれるかはケースバイケース

移動時間が労働時間に含まれるかは、「労働者が使用者の指揮命令下にあるか」という点によって決まります。使用者によって明示または黙示がある場合は、移動時間も労働時間になるのです。労働時間に関する明確な定義はありませんが、厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」には、以下のように記されています。

労働時間に該当するか否かは、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんによらず、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであること。また、客観的に見て使用者の指揮命令下に置かれていると評価されるかどうかは、労働者の行為が使用者から義務づけられ、又はこれを余儀なくされていた等の状況の有無等から、個別具体的に判断されるものであること。

引用元:労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン |厚生労働省

「個別具体的に判断されるもの」とあるように、状況によって労働時間に該当するか異なります。本記事では、移動時間が労働時間に含まれるか、具体例を用いて解説するため、自分の状況と照らし合わせながら判断してください。

また、移動時間が労働時間に含まれるかは、「労働者が使用者の指揮命令下にあるか」という点が重要になるため、このことを念頭に置いて読み進めていただけば、よりわかりやすく理解できます。

移動時間が労働時間に含まれるケース

繰り返しになりますが、移動時間が労働時間に含まれるかは、「労働者が使用者の指揮命令下にあるか」という点です。そのため、移動時間が労働時間に含まれるかは状況によって異なります。移動時間が労働時間に含まれるケースは、以下の3つです。

  • 所定労働時間内に移動するとき
  • 移動中に会社の業務をこなすとき
  • 移動中でも会社の指示に従わなければならないとき

それぞれのケースについて、詳しく解説します。

所定労働時間内に移動するとき

所定労働時間において、「労働者は常に使用者の指揮命令下にある」と解釈されます。そのため、会社からの指示によって、所定労働時間内に移動時間が発生する場合は、労働時間に含まれます。実際、所定労働時間の移動中に会社から連絡があった場合、すぐに対応することが一般的です。

例えば、以下のようなケースが当てはまります。

  • 会社に出社後、営業先へ移動する場合
  • テレワーク中に、外出して業務する場合

会社の指示があれば、テレワーク中であっても所定労働時間は労働時間に含まれます。

移動中に会社の業務をこなすとき

所定労働時間外であっても、会社からの指示があり移動中に業務をこなす場合は、移動時間も労働時間です。この場合の労働時間は、時間外労働に当てはまるため、残業代が発生します。そのため、後日、残業代を申請しましょう。

例えば、以下のようなケースが労働時間に含まれます。

  • 上司や部下を車に乗せて運転する場合
  • 警備員や通訳として同行する場合
  • 公共交通機関を利用して、パソコン業務をする場合

上記のようなケースは、労働場所が職場(事務所)であるか、車の中であるかの違いです。場所は異なりますが、働いていることに変わりはないため、労働時間に含まれます。

移動中でも会社の指示に従わなければならないとき

移動中であっても会社からの指示がある場合、すぐに対応しなければならないときは「手待ち時間」として扱われます。「手待ち時間」とは、作業中でなくても使用者から連絡があれば、すぐに作業に取り掛かれるよう、待機している時間のことです。

手待ち時間は、使用者の指揮命令下にあるとみなされ、労働時間に当てはまります。ただし、休憩時間は手待ち時間に当てはまりませんので、注意しましょう。

移動時間が労働時間に含まれないケース

移動時間が労働時間に含まれないケースは「労働者が使用者の指揮命令下にない」ときです。つまり、行動が制限されておらず、移動時間が自由に扱える場合は、労働時間に含まれません。例えば、移動中にゲームや読書、仮眠をとる、などができる場合は、労働時間とはいえません。

また、移動中に会社から業務指示が来たとしても、すぐに対応する必要がない場合も上記に当てはまります。もちろん、このような移動時間は「手待ち時間」としても認められないため、注意しましょう。

移動時間が労働時間に含まれるか具体的なケースで検証

繰り返しになりますが、移動時間が労働時間に含まれるかは、「労働者が使用者の指揮命令下にあるか」という点です。しかし、解釈が複雑で判断しづらい状況もあります。そこで、以下の6つの具体例を見ながら、移動時間が労働時間に含まれるか検証しましょう。

  • 現場から会社に移動する場合
  • 出張に伴って移動する場合
  • 移動中に物品の管理などがある場合
  • 社用車を運転する場合
  • 研修や教育訓練で移動する場合

上記の状況と照らし合わせて、自分の移動時間が労働時間に含まれるか確かめてください。

現場から会社に移動する場合

「現場から会社」「自宅から現場」「自宅から会社経由で現場」など、現場・会社・自宅の3区間での移動時間が労働時間に含まれるか、疑問を持つ人は多いのではないでしょうか。それぞれのケースについて、見ていきましょう。

現場から会社に移動する場合

現場で仕事が終わり、会社経由で自宅に帰宅する場合は、会社で実務が発生するかによって異なります。例えば、会社に帰った後に事務作業や明日の準備がある場合は、所定労働時間外であっても、移動時間は労働時間に含まれます。また、社用車を会社へ返却しなければならないときも同様です。

現場から会社までの移動時間は労働時間とし、会社から自宅までの時間は通勤時間となります。注意点としては、会社からの指示がなく社用車を使用している場合は、労働時間に含まれないことです。社用車については、この後、詳しく紹介しますので、参考にしてください。

自己都合(忘れ物など)で会社に立ち寄り帰宅する場合は、労働時間に含まれません。

自宅から現場へ直行する場合

自宅から現場へ直行する場合は、会社からとくに指示がなければ通勤時間とみなされるため、労働時間に含まれません。ただし、直行する現場が、社会通念上著しく遠い場合は、労働者の自由な時間を多く犠牲にするため、労働時間に含まれる可能性があります。労働時間に含まれるかどうかは、各会社の就業規則を見て、条件を確かめておきましょう。

なお、現場から自宅へ直帰する場合も同様です。また、帰宅時が所定労働時間外であっても、通勤時間とみなされるため、労働時間にふくまれません。

自宅から会社経由で現場に移動する場合

自宅から会社経由で現場に移動する場合は、状況により異なります。以下の表を参考にしてください。

労働時間に含まれるケース 労働時間に含まれないケース
会社で朝礼やミーティングがあるとき
会社で準備する必要があるとき
会社に立ち寄るよう指示があるとき
会社の指示はないが、社車に乗り換えるとき
忘れ物などを取りに行ったとき

基本的には、会社からの指示や、業務がなければ労働時間に含まれないと思ってください。会社への移動時間は労働時間に含まれませんが、会社から現場へ向かうときに、始業時間を迎えていた場合は、会社から現場の移動時間は労働時間に含まれます。

出張に伴って移動する場合

出張に伴って移動する場合も、基本的には通勤時間扱いとなるため、労働時間ではありません。しかし、既に述べたとおり、状況によっては労働時間に含まれるケースがあります。労働時間に含まれるかは、以下の表を参考にしてください。

労働時間に含まれるケース 労働時間に含まれないケース
移動時間も業務が発生するとき
警備や通訳などの目的があるとき
上司などを乗せて運転者として移動するとき
自由に行動できるとき
急を要さない業務をしたとき

ただ目的地に向かうだけでは、出張であっても労働時間に含まれません。移動の過ごし方で異なるため、詳しくは会社の就業規則を確認してください。

社用車を運転する場合

社用車を運転したからといって、労働時間に入るとは限りません。社用車であっても、使用者の指揮命令下でなければ労働時間に含まれません。例えば、社用車で乗り合わせて現場に向かう場合でも、チーム内で決めたことであれば、単なる移動時間になってしまいます。

社用車であることが重要ではなく、あくまで「使用者の指揮命令下」であるかが重要です。

研修や教育訓練で移動する場合

研修や教育訓練での移動時間も状況により異なります。労働時間に含まれる事例と、含まれない事例をいくつか紹介するので、見ていきましょう。

【労働時間に含まれる事例】
事例①:休日出勤を指示され、後日レポート提出があるなど実質的な業務に当てはまる場合
事例②:あらかじめ先輩社員の業務を見なければ、実際の業務がこなさないとされる業務見学の場合
事例③:研修や教育訓練に参加しなければ、減給対象に当てはまる場合
事例④:研修や教育訓練の参加を強制されている場合
【労働時間に含まれない事例】
事例①:業務上義務づけられておらず、参加が自由な研修の場合
事例②:所定労働時間外に食事は支給されるものの、参加は自由で強制がない研修の場合
事例③:所定労働時間外に、会社からの許可を得て、会社の設備を使い、自ら申し出て行う訓練の場合
事例④:会社が専門家に依頼して開催している自由参加の研修の場合

労働時間に含まれる場合は、参加が義務づけられているケースが多くあります。厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」には、以下のように記されています。

参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の
指示により業務に必要な学習等を行っていた時間

引用元:労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン |厚生労働省

研修や教育訓練において、移動時間が労働時間に含まれるかは、義務づけられているかどうかを基準に考えましょう。

移動時間によって発生した残業代の考え方

移動時間が労働時間と認められた場合、所定労働時間外の労働時間は残業代として算出する必要があります。残業代は、法定労働時間を超えた労働に対して、支払わなければならない賃金です。残業代の計算方法は以下のとおりです。

1時間あたりの賃金 = 月給(基本給+諸手当) ÷ 1ヶ月の平均所定労働時間
残業代 = 1時間あたりの賃金×(1+割増率) × 時間外労働時間

通常の時間外労働であれば、割増率は25%になります。例えば、月給20万円、1ヶ月あたりの所定労働時間が170時間、時間外労働を8時間したときの残業代は以下のように算出できます。

1,176円(1時間あたりの賃金) = 20万円(月給) ÷ 170時間(1ヶ月の平均所定労働時間)
1,176円 × (1 + 0.25) × 8時間 = 11,760円(残業代)

移動時間が労働時間に含まれる場合は、自分の残業時間や月給などを上記の表に入れて、残業代を算出してください。移動時間が残業代として含まれているか確かめましょう。

移動時間についての判例

移動時間が労働時間に含まれるかどうか、についての裁判例を3つ紹介します。

  • 横川電機事件(1994年年9月)
  • 東葉産業事件(1989年11月)
  • 日本工業検査事件(1974年1月)

基本的に、「移動時間は労働時間に含まない」と判断されるケースが多いです。

横川電機事件(1994年年9月)

この事件の概要は、韓国に出張した労働者が時間外勤務手当を請求した事例です。「移動時間は労働協約に規定された実勤務時間に含まれない」という会社側の意見に対し、労働者は「実勤務時間に含まれるので、時間外勤務手当が必要だ」と主張しました。

これに対して裁判所は、移動時間は労働拘束性の程度が低く、実勤務時間とみなすには困難であるため、移動時間が時間外手当の支給対象になるとの解釈を導き出せない、と判断しました。国外の長距離出張であっても、拘束性が低く自由度が高ければ移動時間は労働時間に含まれません。

参考資料:横川電機事件(1994年年9月)

東葉産業事件(1989年11月)

この事件の概要は、出張の移動に休日を利用したため、移動時間は休日労働に値するかどうかを争われたものです。裁判所は、日曜日に仕事をしたのではなく、日曜日を利用して出張から帰ってきただけだと判断しました。これは、日常的にある通常勤務の出退勤と同じ扱いであるため、労働時間に含まれないという判断です。

休日を使って出張から帰ってきたとしても、休日に業務をしていなければ労働時間に含まれません。移動時間は、通勤時間とみなされます。

参考資料:東葉産業事件(1989年11月)

日本工業検査事件(1974年1月)

この事件の概要は、地方現場に出張したときに、出張先からの移動が休日になされたため、割増賃金の支払いを請求した事例です。裁判所は、出張にかかる移動時間は、労働者が日常的な通勤時間と同じであるため、労働時間に含まれないと判断しました。

参考資料:日本工業検査事件(1974年1月)

移動時間や労働時間についてのよくある質問

移動時間や労働時間についてのよくある質問は、以下のとおりです。

  • 移動時間が労働時間として認めてもらえないときは?
  • 交通渋滞を避けるために早く出勤した場合の移動時間は?
  • 営業職の移動時間が労働時間に含まれますか?

それぞれの質問について、解説します。

移動時間が労働時間として認めてもらえないときは?

移動時間が労働時間に含まれる場合、労働時間としてカウントされない部分は、法律上賃金未払いに値します。労働者が法定労働時間(1週間40時間、1日8時間以上)を超える労働をした場合、時間外労働手当(残業代)の支払いが必要です。

もし時間外労働手当(残業代)が支払われないときは、未払い金額を計算した上で、会社へ未払い金額を請求しましょう。なお、未払い金額を請求したにもかかわらず、正当な対応がなされない場合は、弁護士に相談してください。

交通渋滞を避けるために早く出勤した場合の移動時間は?

会社の始業時間に遅れないように、交通渋滞を予測し、早く出勤する人は多いのではないでしょうか。早く出勤したことにより、始業時間よりも早く到着し、時間が余ってしまうケースがあります。この場合でも、移動時間が労働時間に含まれません。

会社からの指示ではなく、自己判断で早く出勤しただけであるため、通勤時間とみなされます。仮に、早く到着した後に、通常業務を開始していた場合は、労働時間に含まれます。

営業職の移動時間が労働時間に含まれますか?

外回り営業であっても直行・直帰に関する移動時間は、労働時間に含まれません。ただし、所定労働時間内で営業先に出向く移動時間などは、労働時間に含まれます。

まとめ

移動時間が労働時間に含まれるかどうかは、「使用者の指揮命令下にあるか」という点です。労働時間は定義がないため、労働時間に含まれるかは、ケースバイケースです。そのため、本記事で紹介した具体例などを参考にし、労働時間に含まれるか検討しましょう。

出張や研修などの移動時間や、直行・直帰の移動時間などが、労働時間に含まれるケースは少なく、通勤時間扱いとなることがほとんどです。移動時間が労働時間に含まれるか迷ったときは、「使用者の指揮命令下」にあるかどうかを考えましょう。

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