残業代が計算されない理由は?未払いの残業代を請求する方法を解説

「残業したのに残業代が計算されない(出ない)のはなぜ?」と疑問を持っている人は、少なくありません。ほとんどのケースで、残業代が出ないのは違法である可能性が高いです。しかし、職種や雇用形態によっては、残業代が出ない場合もあります。

本記事では、残業代が計算されない理由や、未払いの残業代を請求する方法について紹介します。会社によっては、独自のルールを設けて残業代を支払わない場合もありますので、注意しましょう。

本記事の結論

・残業したのに残業代が計算されないのは、管理監督者やみなし労働時間制、固定残業代制の場合
・「フレックスタイム制は残業代が計算されない」「定時が過ぎればサービス残業扱いになる」「持ち帰り残業は計算されない」などの会社独自のルールに注意
・未払いの残業代を請求するためには、証拠を集める、未払い分の残業代を計算する、会社と交渉するなどの手順を踏む

残業したのに残業代が計算されない5つの理由

残業したのに残業代が計算されない5つの理由は、以下の通りです。

  • 1.管理監督者の場合
  • 2.みなし労働時間制の場合
  • 3.固定残業代制の場合
  • 4.会社の指揮命令下ではない場合
  • 5.労働者ではない場合

この5つの場合は、残業代が出なかったとしても違法ではない可能性が高いです。残業代が出なければ、必ずしも違法とは限りませんので、注意しましょう。

1.管理監督者の場合

管理監督者に該当する人は、残業代が出ません。これは、労働基準法第41条で定められています。管理監督者は、法定労働時間、法定休日、休憩の3つについて、労働基準法が適用されません。しかし、深夜早朝の割増賃金については、適用されますので、支払わなければなりません。

「管理監督者=管理職」ではありませんので、管理職であれば残業代が出ない、というのは間違いです。「名ばかり管理職」の人は、残業代が出ます。管理監督者かどうかは、「経営者との一体感」や「権限」、「待遇」、「労働時間の裁量」などによって決まります。

2.みなし労働時間制の場合

労働基準法で規定された「みなし労働時間制」に該当する場合は、労働時間に限らず賃金が支払われているため、残業代が出ません。労働基準法第38条で定められている「みなし労働時間制」は、以下の3つです。

1.事業場外におけるみなし労働時間制

事業場外で働いた分に関して、労働時間の算出が難しい場合は所定労働時間労働したものとします。

2.専門業務型裁量労働制

専門業務型裁量労働制は、定められた20の業務について、あらかじめ定めた時間労働したものとみなす制度です。業務を遂行するにあたり、使用者が労働者に具体的な指示ができない場合は、裁量を委ねる必要があります。

このような場合、専門業務型裁量労働制を導入することがあります。なお、専門業務型裁量労働制は、労使協定を結ぶ必要です。

参考元:厚生労働省「専門業務型裁量労働制」

3.企画業務型裁量労働制

事業運営に関する企画・立案・調査・分析の業務においても、労働者に裁量を委ねる場合があります。その際に、あらかじめ定めた時間労働したものとみなす制度です。企画業務型裁量労働制を導入する場合は、労使委員会で決議し、労働基準監督署へ届け出が必要です。

参考元:厚生労働省「企画業務型裁量労働制」

3.固定残業代制の場合

固定残業代制とは、あらかじめ固定された残業時間分の賃金を毎月の給与に含めて支払う制度です。毎月20時間残業すると仮定した場合は、基本給25万円+固定残業代5万円の合計30万円となります。20時間以内であれば、いくら残業しても残業代は出ません。

しかし、残業時間が30時間だった場合は、固定残業時間より10時間多く残業していますので、10時間分の残業代を支払う必要があります。また、固定残業代制を導入する場合、主に以下の4つの条件を満たさなければ認められません。

  1. 労働契約書や就業規則に固定残業代制についての規定が定めてある
  2. 固定残業代と基本給の区別が明確である
  3. 固定残業代が適正な金額に設定され、月45時間を大幅に超えない設定になっている
  4. 設定された残業時間よりも多く残業した場合に追加の残業代を支払うこと

4.会社の指揮命令下ではない場合

残業が発生する条件は、労働時間に働いていることです。労働時間は「使用者(会社)の指揮命令下に置かれている時間」のことを指します。つまり、会社から指示がない・労働を把握していない時間に労働しても労働時間に含まれませんので、残業に当てはまりません。

会社から「残業してください」と明確な指示をもらう必要はありませんが、労働者が残業していることを認知しており、異論がない場合に残業と認められます。

例えば、以下のような場合は、残業と認められません。

  • 労働者が仕事を家に持ち帰り作業していることを会社が知らない(労働者が報告していない)
  • 労働者が誰もいない早朝から仕事をしていることを会社が知らない

一生懸命働いていても、指示もなく自分が勝手に働いているだけであれば、残業として認められない可能性が高いので注意しましょう。

5.労働者ではない場合

残業代を請求できるのは労働者のみです(労働基準法第37条)。業務委託契約や請負契約の場合は、労働者に当てはまらない場合があります。例えば、業務委託契約は、委託者からの仕事を受託者が受けて報酬を支払う契約です。一般的には委託者と受託者は、対等な立場になります。つまり雇用契約ではないため、残業がありません。

しかし、業務委託契約であっても委託者との関係性や働き方によっては、雇用契約(労働契約)に当てはまる場合があります。具体的には、以下のような基準を考慮して判断します。

  • 依頼された仕事に対して拒否できるか
  • 業務を遂行するにあたり使用者の指揮命令の度合いが強いか
  • 業務にあたる時間や場所、方法などが指定されているか
  • 与えられた業務を他の人に代行できるか
  • 成果に対して報酬があるのか労働時間に対して報酬があるのか
  • 業務で使用する機器などは誰が負担するのか

契約が名目上では業務委託契約であっても、委託者と使用従属の関係がある場合は、残業として認められる可能性が高いです。

残業代が計算されない会社独自のルールに注意

残業代が計算されない(出ない)場合、会社独自のルールを設けている場合があります。会社独自のルールを設けたとしても、法律に則ったルールでなければ、そのルールは認められません。以下の会社独自のルールには注意しましょう。

  • フレックスタイム制は残業代が計算されない
  • 定時が過ぎればサービス残業扱いになる
  • 残業の上限が決められている
  • 始業時間より早い出勤は残業代が計算されない
  • 持ち帰り残業は計算されない
  • 年俸制や歩合制は残業代が計算されない
  • 端数の時間を切り捨てられる
  • 研修中は残業代が計算されない

フレックスタイム制は残業代が計算されない

フレックスタイム制とは、労働者が1ヶ月、1年など一定期間において、あらかじめ定められた総労働時間の範囲内であれば、始業時間や就業時間、労働時間などを自由に設定できる制度です。

フレックスタイム制では、定時制とは違い1日単位で残業が発生しません。清算期間(一定期間)を迎えたときに残業代をまとめて計算します。総労働時間内に残業時間が収まっていた場合は、残業代が計算されませんが、超えていた場合は超過分の残業を支払わなければなりません。

つまり「フレックスタイム制なので残業代が出ない」という会社独自のルールは間違いです。

定時が過ぎればサービス残業扱いになる

本来であれば労働が終わったタイミングでタイムカードを打刻しますが、定時が来るとタイムカードを打刻させ、残りはサービス残業にさせるケースです。「仕事は定時までに終わらせること」などの会社独自のルールを設け、定時に終わらない仕事は自分の責任としてタイムカードを打刻させる場合があります。

自分のミスにより自主的にサービス残業する人もいますが、従業員のミスをカバーするための残業も会社が支払わなければなりません。また、定時に終われないほど大量の業務を押し付け、定時以降をサービス残業とする行為は違法です。定時以降にタイムカードを打刻できない場合は、定時が終われば働くのではなく帰宅しましょう。

残業の上限が決められている

「うちの会社は残業時間の上限が月30時間まで」といった独自のルールを設け、それ以降の残業代を支払わないのは違法です。残業時間の上限は、「月45時間・年間360時間以内」と労働基準法で定められています。例外の場合でも「月100時間・年間720未満」です。

この上限以外で独自のルールを定めても、その上限は効力がありません。そのため、残業時間が何時間であろうと働いた分の残業代を請求しましょう。

始業時間より早い出勤は残業代が計算されない

始業時間よりも早く出勤して、掃除や準備する人は多くいます。早出が会社の指揮命令下であれば労働時間になりますので、残業代として計算しなければなりません。しかし、実際は始業時間からタイムカードを打刻し、残業代として計算されないケースがほとんどです。

始業時間よりも前に朝礼や簡単なミーティングがある会社は少なくありません。例えば、勤務時間が8時から18時(休憩2時間)で、7時30分にある朝礼に参加するように会社から指示されていたとします。

この場合、本来は7時30分から出勤扱いになるため、30分の残業したことになります。そのため、会社は30分間の残業代を支払わなければなりません。一方、自主的に30分前に出勤し掃除や準備をしている場合は、会社の指揮命令下に当てはまらないため残業代は出ません。

持ち帰り残業は計算されない

日々の業務が多く、定時までに仕事が終わらない場合もあります。会社が残業を禁止しており、家に持ち帰って仕事の続きをする場合、残業代として計算するパターンと計算されないパターンがあります。

残業代として計算するパターンは、会社から仕事を持ち帰るよう指示があった場合です。持ち帰り残業しなければ、納期が間に合わない、仕事が膨大にあるなどの理由で会社が黙認している場合も残業代に含まれます。

一方、残業代として計算されないパターンは、急ぎではなく自主的に作業している場合や、効率よく作業を進めるために自分で前日準備している場合などです。

年俸制や歩合制は残業代が計算されない

「年俸制だから残業は出ない」「歩合制だから残業は出ない」といった説明を受けて、年俸制や歩合制は残業代がでないものだと勘違いする人も少なくありません。

年俸制はあらかじめ決められた給与をまとめて支払うだけで、残業のルールは変わりません。法定労働時間(1日8時間、1週間40時間)を過ぎた分は、残業代として支払われます。歩合制も年俸制と同じです。こちらも法定労働時間を過ぎた分は、残業代になります。

年俸制や歩合制は、給料の支払い方が変わるだけで残業に関するルールは変わりませんので、注意しましょう。

端数の時間を切り捨てられる

残業代は、原則1分単位で計算しなければなりません。会社の独自のルールで15分や30分単位で残業代を切り捨ててはいけません。残業代を切り捨てると、本来支払われるべき残業代が支払われないため、労働者が不利になってしまいます。一方、切り上げは労働者が有利になるため、認められています。

ただし、次の2つの場合は残業代の切り捨てが可能です。1つ目は、1ヶ月の残業時間の合計に1時間未満の端数が発生した場合です。例えば、1ヶ月の残業時間の合計が8時間45分の場合、端数を切り上げて9時間として計算し、1ヶ月の残業時間の合計が8時間15分の場合、端数を切り捨てて8時間として計算します。

2つ目は、1時間あたりの残業代で1円未満の端数が発生した場合です。例えば、1時間あたりの残業代が1,500.60円の場合、端数を切り上げて1,501円として計算し、1時間あたりの残業代が1,500.15円の場合、端数を切り捨てて1,500円とします。

どちらの方法も、一律で切り捨てる・切り上げるなど片方だけを行うことは認められていません。もちろん、条件によって残業代の計算方法を変更することはできません。

研修中は残業代が計算されない

研修中に残業が発生した場合でも、残業代として計算されます。研修中であっても、労働者であることに違いはありません。「研修中は正式な社員ではないの残業代は出ない」といった会社独自のルールを言われたとしても、残業代を請求しましょう。

未払いの残業代を請求するためにすべきこと

残業代が計算されない・未払いの残業代があるときは、以下の手順で残業代を請求しましょう。

  • 残業した事実のわかる証拠を集める
  • 未払い分の残業代を計算する
  • 社内外の相談窓口に相談する
  • 会社と交渉する
  • 解決できない場合は労働審判・訴訟の申し立てる

それぞれについて見ていきましょう。

残業した事実のわかる証拠を集める

未払いの残業代を請求するためには、未払いの残業代があることや残業した事実のわかる証拠を集めましょう。残業代を支払わないことは違法です。そのため、しっかりと証拠を集め会社に提示することで、会社が支払ってくれる場合があります。任意で支払ってもらえなかったとしても、法的手段をとる際に証拠は必要です。

残業した証拠を集めるときは、以下のような証拠を集めましょう。

  • 労働契約書や就業規則
  • 給与明細
  • タイムカードの打刻記録(勤怠管理の記録)
  • オフィスのパソコンなどのログイン履歴
  • 会社の防犯カメラの録画
  • 上司や取引先などに送信したLINEやメール

証拠は多ければ多いほど良いです。集められる分だけの証拠を集めておきましょう。

未払い分の残業代を計算する

残業代を計算し、未払いの残業代がいくらあるのか把握しましょう。残業代の計算式は以下の通りです。

残業代=1時間あたりの賃金(基礎賃金÷月平均所定労働時間)×割増率×残業時間

基礎賃金は、基本給と手当の合計金額から除外金額(通勤手当、家族手当、別居手当など)を引いた金額です。具体的な数値を入れてシミュレーションしてみましょう。

基礎賃金が250,000円、月平均所定労働時間が150時間、残業時間が20時間(深夜残業などは含まない)、割増賃金率が1.25倍だった場合で計算します。

1時間あたりの賃金は、250,000円÷150時間=1,667円

残業代は、1,667円×1.25倍×20時間=41,675円

社内外の相談窓口に相談する

未払いの残業代があることが分かれば、社内外の相談窓口へ相談し、アドバイスをもらいましょう。社内の相談窓口でも良いですし、社外であれば労働組合や労働基準監督署、弁護士などがあります。

労働組合であれば団体交渉権を使って残業代の請求が可能です。労働組合への加入が必要ですが、会社に労働組合がない場合は自分でユニオンを探して加入してください。

労働基準監督署に相談・申告すると、企業に対して立入調査や是正勧告してくれます。ただし、すぐに行動を起こしてもらえるとは限りません。他の相談者からの相談が多く、労働基準監督署が優先度を判断して順に対応します。匿名で相談し、未払いの残業代がある証拠などがなれれば後回しになることもあるので注意しましょう。

労働基準監督署の指導・是正勧告によって、会社が残業代を支払う場合もありますが、強制力はないので労働基準監督署が残業代を回収してくれるわけではありません。

法的手段をとって未払いの残業代を請求する場合は、弁護士がおすすめです。交渉では上手くいかない、会社が残業代を支払う気が全くない場合は、弁護士に相談しましょう。

会社と交渉する

まずは会社と交渉し、任意で残業代を支払ってもらえるよう求めます。具体的には、残業代の請求書を送付するのが好ましいでしょう。残業代を計算した金額や内訳を書面に記載し、内容証明郵便で送付します。内容証明郵便で送付することで、会社へ請求書を送った事実が証拠として残ります。

解決できない場合は労働審判・訴訟の申し立てる

会社との交渉で解決しない場合は、労働審判・訴訟の申し立てましょう。労働審判は、裁判官1名・労働審判員2名で構成される労働審判委員会が、審理します。非公開で手続きが進み、原則3回以内の審理で終わりますので、スムーズです。労働審判で異議が申し立てられた場合は、訴訟へと移行します。

残業代が計算されないに関するよくある質問

残業代が計算されないことに関するよくある質問は、以下の通りです。

  • 残業代が計算されないのは違法ですか?
  • 残業代が計算されない職種がある?
  • 残業には時効があるの?
  • 残業代が発生する条件は?

それぞれについて見ていきましょう。

残業代が計算されないのは違法ですか?

残業代が計算されない(出ない)場合、ほとんどのケースで違法です。しかし、雇用形態や職種によっても残業代が出ない場合があり、以下の5つは残業代が出ません。

  • 管理監督者の場合
  • みなし労働時間制の場合
  • 固定残業代制の場合
  • 会社の指揮命令下ではない場合
  • 労働者ではない場合

とくに会社独自のルールを設けている場合は、違法にあたるケースがほとんどです。残業代が少ないと感じたら、残業代を計算し、会社に説明を求めましょう。

残業代が計算されない職種がある?

労働基準法第41条に該当する人・職種は、労働基準法で定める労働時間や休日などの規定が適用されません。例えば以下のような職種です。

  • 農業・畜産・水産業など
  • 機密事務取扱者(秘書など)
  • 監視又は断続的に労働に従事する者(警備員や管理人など)
  • 公立学校の教員
  • 同居の親族のみを使用する事業
  • 家事使用人(家政婦)

上記の職種でも深夜労働や就業規則に残業代に関する規定がある場合は、残業代が出ることもあります。

残業には時効があるの?

残業の時効は3年です。2020年4月1日に労働基準法が改正されたことにより、2年から3年に変更しました。なお、支給された給料に未払いがある場合は、給料日の翌日が時効の起算点です。時効が近い場合は、会社に対して残業代請求することで、一時的に時効を止められます。

時効を一時的に止めるには、内容証明郵便で書面を送付するといいでしょう。会社に残業代請求すると、6ヶ月後(5カ月間)の延期が可能です。

残業代が発生する条件は?

残業代が発生する条件は、以下の2つです。

  • 労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間(労働時間)に働いていること
  • 所定労働時間を超える労働をしていること

まずは、会社が指示している・黙認していることが必須です。会社が把握していない時間・場所で働いていても残業として認められません。この状況下で、所定労働時間を超えた労働をした場合に残業代が発生します。

まとめ

残業代が計算されない(出ない)場合は、違法にあたるケースがほとんどです。とくに「定時が過ぎればサービス残業扱いになる」「持ち帰り残業は計算されない」などの、会社独自のルールには注意しましょう。

一方で、管理監督者の人や固定残業代制が導入されている、一部の職種などは残業代が出ない場合があります。残業したのに残業代が計算されない場合は、証拠を集めてから会社と交渉してください。解決できない場合は、弁護士や労働基準監督署、労働組合などに相談して、未払いの残業代を請求しましょう。

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