社用車(営業車)で事故を起こしたとき、運転していた従業員と会社にはどのような責任を負うことになるのか、気になる人はいるのではないでしょうか。一般的には、運転していた従業員と会社の両方が責任を負うことになります。
本記事では、社用車で事故を起こしたときの責任についてや、会社からのペナルティ・対応方法などについて解説します。
・損害賠償は自己負担になりますが、車の修繕費は会社負担になるケースが多い
・会社によってはクビや減給などのペナルティを科される場合がある
・事故を起こしたときは、「①車を止めて周囲の安全確保」「②警察へ連絡」「③事故現場の記録」「④会社や保険会社へ連絡」といった対応をとること
目次
社用車(営業車)で事故を起こしたときの責任・自己負担は?
社用車で事故を起こしたときの責任・自己負担は、社用車を運転している従業員と会社のそれぞれに発生します。以下の4つのパターンで責任・自己負担がどのように変わるのか見ていきましょう。
- 社用車を運転している従業員の責任
- 会社の責任
- 営業時間外で事故を起こしたときの責任
- マイカーを運転中に事故を起こしたときの責任
社用車を運転している従業員の責任
交通事故を起こしたとき、社用車を運転している従業員は、「刑事上の責任」「民事上の責任」「行政上の責任」の3つの責任が発生します。
刑事上の責任 | 罰金や懲役などの刑事罰 |
民事上の責任 | 損害賠償 |
行政上の責任 | 免許の取り消し・停止、点数の加算 |
刑事上の責任は、交通事故を起こして相手にケガを与えたり、死亡させたりすると発生します。例えば、過失運転致死傷罪などの罪です。過失運転致死傷罪であれば、「7年以下の懲役・禁固、または100万円以下の罰金」が科されます。
民事上の責任は、交通事故を起こして相手に損害を与えた場合に発生します。例えば、相手の車の修理費や治療費などの損害賠償です。不法行為責任(民法709条)にあたりますので、被害状況に応じて金銭的な支払が必要です。
行政上の責任は、交通事故を起こしたときに交通違反をしていた場合に発生します。例えば、酒酔い運転であれば35点加算されるため、免許の取り消し処分です。その他にもスピード違反で事故を起こしたときは、超過速度に応じて1~12点(酒気帯びではない場合)加算されます。
社用車で事故を起こしたときは、事故の状況によって異なりますが、上記の3つの責任が発生します。
参考元:交通違反の点数一覧表 警視庁
会社の責任
従業員が社用車で事故を起こしたとき、責任が発生するのは従業員だけではありません。会社は、「使用者責任」と「運行供用者責任」の2つの責任が発生します。
使用者責任 | 社用車を運転している従業員が、業務中に第三者へ被害を加えたとき、その従業員を雇っている会社(使用者)が賠償する責任のこと |
運行供用者責任 | 社用車を運転している従業員が、運行中に人身事故を起こしたとき、会社(運行供用者)が賠償する責任のこと |
会社が「従業員を使用することで利益を上げている場合」や「車を利用することで利益を上げている場合」は、その従業員や車によって生じた損害についても責任を負うべき、という考え方です。
ただし、使用者責任は事故の状況によって、責任が発生するか異なります。そこで、「営業時間外で事故を起こしたとき」「マイカーを運転中に事故を起こしたとき」の2つのシチュエーションを見ていきましょう。
営業時間外で事故を起こしたときの責任
営業時間外で事故を起こしたとき、社用車を運転している従業員は上記と同様に3つの責任が発生します。一方、会社は一般的には責任を負われることはありませんが、以下のような場合には責任が発生します。
- 〇〇会社などがペイントされ、外観から見ても社用車であることが判断できるとき(使用者責任)
- 従業員が社用車を私用で使っていることを会社が黙認していたとき(運行供用者責任)
- 鍵がついてるなど従業員が社用車をいつでも使えるような状態にしていたとき(運行供用者責任)
会社が社用車の管理を怠っていたなどの場合は、会社も責任を負うことがあるでしょう。
マイカーを運転中に事故を起こしたときの責任
マイカーを運転中に事故を起こしたときは、従業員に3つの責任が生じることはあきらかです。
一方の会社は、従業員がマイカーを運転していたとしても、営業時間内であれば使用者責任や運行供用者責任が発生します。通勤中や退勤中も例外ではありません。ただし、通勤中や退勤中に業務との関連性がない場合に、責任を負う必要はありません。例えば、帰宅中に家族と食事をした、買い物をしたなどの場合です。
運転者は、社用車や営業時間に関係なく、事故を起こしたときには3つの責任が発生することを覚えておきましょう。
社用車で事故を起こしたときの損害賠償・修繕費は?
社用車で事故を起こしたときの損害賠償・修繕費は、どうなるのか見ていきましょう。
- 社用車で事故を起こしたときの損害賠償について
- 社用車で事故を起こしたときの修繕費について
社用車で事故を起こしたときの損害賠償について
社用車で事故を起こしたときに損害賠償を請求された場合、「連帯責任」になります。被害者は従業員・会社の両方に100%、つまり損害賠償の全額を請求することが可能です。負担割合については、法令で定められていません。そのため、従業員が6割、会社が4割というような負担割合は、会社と従業員の話し合いによってきまります。
社用車で事故を起こしたときの修繕費について
社用車で事故を起こしたときの修繕費に関しては、従業員が事故を起こしたとしても会社負担です。会社は就業規則で従業員に賠償金額の策定をしてはいけない、と労働基準法第16条で定められています。
つまり、「従業員が社用車で交通事故を起こしたときに必要な修理費はすべて運転者が負担する」といった内容を就業規則で定めることができません。ただし、「一部の損害額を請求することがある」といった内容であれば、問題ありません。
社用車で事故を起こしたとき会社からペナルティはあるの?
社用車で事故を起こしたとき会社からペナルティがあるのか、気になる人は多いのではないでしょうか。結論からいえば、ペナルティがあるかは会社により異なります。就業規則などで定められている場合もありますので、確認しておきましょう。
- 社用車で事故を起こしたときはクビや減給になる?
- 社用車を運転した従業員に対する求償権は?
社用車で事故を起こしたときはクビや減給になる?
社用車で事故を起こしたからといって、必ずクビや減給になるとは限りません。事故の大きさや会社の方針によって異なるからです。例えば、事故が従業員の故意または重大な過失であれば、解雇になる可能性があります。
また、バスやタクシー、運送業の方が交通事故で免許の取り消しになった場合は、運転できなくなるためクビになる可能性が高いでしょう。
社用車を運転した従業員に対する求償権は?
求償権とは、使用者責任などで会社が被害者に対して賠償した金額を従業員に請求する権利のことです。つまり簡単にいえば、会社が被害者に100万円の損害賠償を支払った場合、その内の50万円を従業員に請求する権利のことです。
従業員に対して求償することは可能ですが、基本的に全額求償することは難しくなっています。そのため求償の割合に関しては、ケースにより異なります。実際に判例で考慮された項目としては、以下の通りです。
- 事業の性格、規模
- 施設の状況
- 被用者の業務の内容
- 労働条件
- 勤務態度
- 加害行為の態様
- 加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度
- その他諸般の事情
会社からのペナルティというわけではありませんが、場合によっては会社が被害者に支払った金額の何割かを請求される可能性があります。
社用車で事故を起こしたときの対応について
社用車で事故を起こしたときは、冷静に状況を判断しながら適切な行動をとることが大切です。具体的には以下の5つの対応をとりましょう。
- 1.社用車を止めて周囲の安全確保
- 2.警察へ連絡
- 3.事故現場の記録と連絡先の交換
- 4.会社・保険会社へ報告・連絡
- 5.ケガがあれば病院へ
1.社用車を止めて周囲の安全確保
事故が起きたときは、速やかに車を安全な場所に停車させ、車から降りましょう。事故が起きたときに運転手は、直ぐに車を停車させ負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置をとることが、道路交通法第72条で定められています。
気が動転してその場から離れてしまう人もいますが、道路交通法違反になるため注意しましょう。負傷者がいる場合は、意識の確認や出血がないか確かめてください。場合によってはすぐに救急車を呼びましょう。
また、二次災害にも気をつけなければいけません。車を道路わきに寄せたり、交差点付近であれば少し離れた位置に車を移動させたりなど、周りの状況を冷静に判断しながら安全を確保しましょう。
2.警察へ連絡
事故が起きたときは、警察への連絡が必要です。接触した相手にケガがなく、本人が問題ないといった場合でも、警察へ連絡してください。基本的には110番で連絡すればよいですが、近くに交番などがある場合は事故を届け出ても構いません。
警察へ連絡すると以下のような質問をされるので、冷静に答えましょう。
- 交通事故が発生した日時や場所
- 負傷者や死傷者の有無とその度合い
- 自走可能かどうか
- 事故により破損したものがあるか
- 連絡者の車の色や車種
3.事故現場の記録と連絡先の交換
負傷者がいない、または軽度なケガであれば、警察が到着するまでに事故現場の記録をしておきましょう。示談交渉や訴訟などのときに役立ちます。後から記録していると忘れてしまうことがあるので、その場で記録しておくといいでしょう。記録しておく項目は以下の通りです。
- 交通事故が起きた日時や場所
- 相手の車のナンバー
- 負傷者の有無やその度合い
- 事故が起きた詳細な状況
- 事故の影響(車のバンパーが破損した、運転手側のドアに10cmの傷など)
警察が到着してからでも構いませんが可能であれば、被害者と連絡先を交換しておきましょう。警察が到着すると、事故の実況見分を行うため、警察の指示に従いながら協力してください。
4.会社・保険会社へ報告・連絡
ある程度、事故現場が落ち着くか実況見分が終われば会社や保険会社へ報告・連絡しましょう。もちろん、警察が来るまでの待ち時間に連絡しても問題ありません。社用車であれば、会社が任意保険に加入しているはずですので、利用することになります。
社用車を運転している従業員だけでなく、会社も責任を負うケースがありますので、必ず会社に連絡しましょう。保険会社への連絡については、会社から指示に従ってください。
5.ケガがあれば病院へ
自分が事故でケガを負った場合は、病院へ行きましょう。「この程度のケガなら大丈夫」だと自分で判断するのではなく、ケガの大小にかかわらず病院で診療を受けてください。事故直後は、興奮して痛みが和らいでいる場合があります。
後から痛みが増して病院へ行ったとしても時間が経過していれば、事故との因果関係が証明できず、損害賠償を適切にもらえない可能性があります。そのため、その日または翌日には病院へ行き、体も異常がないか確かめておきましょう。
社用車で事故を起こしたとき気を付けること
社用車で事故を起こしたとき気を付けることは、以下の3つです。
- 事故を会社や警察に報告しない
- 被害者へ過剰に謝らない
- 再発防止に徹底する
それぞれについて見ていきましょう。
事故を会社や警察に報告しない
事故が起きたときは、警察へ連絡することが道路交通法第72条で定められています。会社にバレたくないからといって、黙っていてはいけません。とくに負傷者がおらず、車両にへの被害も少ない場合、相手との交渉(示談)で済ませる人もいます。
自己判断で相手と交渉してしまうと、会社の任意保険などが利用できない可能性があります。
また、後々大きなトラブルに発展することもあるので注意しましょう。相手から示談を持ちかけられても、当事者だけで判断するのではなく、警察や会社に連絡してください。
被害者へ過剰に謝らない
事故を起こしたとき、被害者への謝罪は必要です。しかし、被害者へ過剰に謝ることは避けましょう。実際は自分の過失が小さかったとしても、過剰に謝ることで過失が大きくなる可能性があります。
ドライブレコーダーの映像や当事者たちの主張、警察の資料などを用いて交通事故の過失の割合が決まります。被害者へ過剰に謝りすぎると、「相手がすべて悪い」「私に非はない」と被害者が主張する恐れがあるからです。現にドライブレコーダーにあなたが謝っている姿ばかりが映っていると、過失に関する争いが起きたときに不利になってしまいます。
被害者へ謝る姿勢は大切ですが、謝りすぎないように心がけましょう。
再発防止に徹底する
事故を起こしてしまった後は、繰り返さないためにも再発防止に徹底しましょう。まずは自分の意識を変えることが大切です。「運転に慣れているから大丈夫」「何回も事故は起きない」といった自分の過信から事故につながります。初心に戻り、右左折時の確認や標識、交通ルールなどを守るように意識してください。
また、体調管理に気をつけること大切です。体調によっても事故の発生率は異なります。睡眠不足や疲れているときなどは、運転を控えるようにしましょう。
まとめ
社用車(営業車)で事故を起こしたときは、車を運転している従業員に責任が発生します。事故の状況によって異なりますが、「刑事上の責任」「民事上の責任」「行政上の責任」の3つです。従業員だけでなく会社も「使用者責任」と「運行供用者責任」の2つの責任が発生する可能性があります。
社用車で事故を起こしたときは、必ず警察や会社に連絡し、その後の対応の指示を仰ぎましょう。場合によっては減給などのペナルティを科されることもあります。会社にバレたくないからといって、報告義務を怠ると道路交通法違反になるため、注意しましょう。
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