「会社の不正を発見し告発したいけど、どこに告発すればいいかわからない」「内部告発はバレるの?」といった悩みを持っている人もいるのではないでしょうか。そもそも内部告発できるものもあれば、できないものもあるので、違いを理解しておくことが重要です。
本記事では、内部告発の通報先や注意点を紹介します。内部告白がバレたときのリスクや、事例なども記事の後半に紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
・会社の不正を告発するところは、社内の相談窓口・行政機関・マスコミの3つ
・内部告発するときは、証拠から自分が特定されないようにする、不正を告発したことを誰にもいわない、具体的で客観的な証拠を集めること
・会社の不正を告発するとバレる可能性がある
・内部告発がバレると、ハラスメント・減給・降格・解雇などのリスクがある
目次
会社の不正を告発する「内部告発」とは何?
内部告発(公益通報)とは、社内で発見した不正を労働基準監督署などの行政機関や、新聞社やテレビ局などのマスコミに通報することです。通報できる人は、正社員・派遣社員・パート・アルバイト・会社の役員・退職して1年以内の人・公務員です。通報は実名・匿名のどちらでも構いません。
- 内部告発できるケース
- 内部告発できないケース
- 内部告発と内部通報の違いは?
それぞれについて見ていきましょう。
内部告発できるケース
会社の問題であればなんでも内部告発できるわけではありません。内部告発できるのは、以下の4つを満たしている場合のみです。
- 通報者の対象である人(正社員・派遣社員・パート・アルバイト・会社の役員・退職して1年以内の人・公務員)
- 「※役務提供先」において「※一定の法令違反行為」が生じた場合
- 通報目的が不正でないこと
- 通報先が①事業者内部、②権限を有する行政機関、③その他の事業者外部のいずれかであること
※役務提供先とは、労働者や役員が役務を提供している事業者のことです。主に勤務先・取引先・派遣先の3つを指します。
※一定の法令違反行為は、493本(令和4年6月1日現在)あり、「公益通報ハンドブック」から確認できます。
まずは、通報者の対象者しか内部告発できません。現職で働いていなくても、退職から1年以内であれば内部告発ができます。知り合いの会社などは、役務提供先に当てはまらないので注意しましょう。一定の法令違反行為は、「国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法律」と考えてください。
具体的には、窃盗や横領、有害物質の含まれる食品の販売、リコール情報の隠蔽、産地偽装、データ改ざんなどがあります。通報先に関しては、後ほど紹介しますので参考にしてください。
内部告発できないケース
基本的には上記で説明した4つの項目に当てはまらないものは、内部告発できません。具体的には以下のような内容です。
- 会社に対する個人的な不満(労働時間が長い・給料が低い・社長に愛人がいるなど)
- 職場内での噂・妬み(〇〇さんが浮気しているらしい・〇〇さんが子供に暴力をふるっているらしい)
内部告発は法律に違反する行為が対象ですので、根拠や証拠のないものや、個人的な不満などは内部告発できません。
内部告発と内部通報の違いは?
内部告発と似た言葉に内部通報があります。内部通知は、社内で発生した不正を社内の相談窓口や会社が定めた外部の相談窓口に相談することです。通報先が異なるだけで、その他については内部告発と変わりません。
会社の不正はどこに告発すればいい?内部告発の通報先
会社の不正は以下の3つに通報してください。
- 社内の相談窓口(コンプライアンス室)
- 労働基準監督署などの行政機関
- 新聞社やテレビ局などのマスコミ
それぞれについて見ていきましょう。
社内の相談窓口(コンプライアンス室)
従業員が301人以上いる企業では、「内部告発に対応するための体制を整備する」ことが義務付けられています。そのため、相談窓口の設置や内部規程の策定、独立性を確保した体制作りなどが求められています。なお、従業員が300人以下の企業は努力義務です。
大企業ではコンプライアンス室と呼ばれることもあります。社内の相談窓口がない場合は、行政機関を利用しましょう。直接上司や社長に是正を求めることも可能です。しかし、以下のような事態を招きかねないためおすすめできません。
- 内部告発される前に違法行為をもみ消される
- 報復人事や社内での立場が悪くなる
労働基準監督署などの行政機関
労働基準監督署や警察など、権限を有する行政機関も相談対象の一つです。告発する内容によって、相談すべき行政機関が異なります。例えば、食品表示に関することは消費者庁、個人情報に関することは総務省です。告発すべき行政機関がわからない人は、消費者庁の検索サイトを利用すれば、告発すべき行政機関がわかります。
例えば、「個人情報」と入力すれば3件のデータが出てきます。1番目の「個人情報の保護に関する法律」をクリックすると通報先の行政機関や電話番号が載っていますので、参考にしてください。なお、間違った通報先に相談したとしても、正しい通報先を紹介してくれますので心配いりません。
新聞社やテレビ局などのマスコミ
その他事業外部にも相談できます。具体的には、新聞社・テレビ局などのマスコミや消費者団体、事業者団体、労働組合などです。テレビ局であれば、情報提供できるサイトがありますので、そこから通報できます。
マスコミに通報するときは、社会的影響力がありますので注意が必要です。会社がすぐに是正する可能性が大きいですが、最終手段として考えましょう。
会社の不正を告発するときに注意する5つのこと
会社の不正を告発するときに注意することを紹介します。
- 1.有効な証拠を集める
- 2.書面やメールなどで通報する
- 3.会社の不正を告発したことを誰にも言わない
- 4.不正確な内容を告発しない
- 5.内部告発を悪用しない
それぞれについて見ていきましょう。
1.有効な証拠を集める
内部告発するときには、具体的で客観的に見て違法行為だと判断できる証拠を集めることが重要です。違法行為をしている写真や動画、パソコンのデータなどが証拠になります。会社から名誉棄損で訴えられたときに証拠があれば、自分を守ってくれます。
ただし、証拠を提出する際は、自分が特定できるような情報が載っていないか注意してください。自分の声や特定の人物であればわかる情報がないか確かめてから提出しましょう。
2.書面やメールなどで通報する
証拠資料は、手紙やメールなど書面で通報先へ送りましょう。大切に保管しておく必要があるため、第三者に見せたり、紛失したりしないように注意してください。また、証拠資料をメールで送る際は、会社のパソコンを使ってはいけません。メールを作成・送信した記録が残ってしまうためです。
3.会社の不正を告発したことを誰にも言わない
会社の不正を匿名で通報した場合は、内部告発したことを誰にも話してはいけません。仲の良い同僚であっても、何かの拍子に他の人に伝わってしまい「〇〇さんが通報したらしい」などと噂が広がる恐れがあります。内部告発したことが会社にバレてしまうと、人間関係の悪化やいやがらせ、ハラスメントなどのリスクが高まるため注意が必要です。
また、会社の不正を告発する前にSNSなどで情報を拡散してしまうと、不特定多数の人に特定されてしまう可能性があります。場合によっては、会社から損害賠償を請求される可能性もあるので、注意しましょう。
4.不正確な内容を告発しない
内部告発する内容は正確でなければなりません。誤った情報やうわさなどの内容で内部告発してはいけません。通報した内容が不正確であれば、個人や事業者に大きな損害を与えてしまう可能性があります。内部告発するときは、通報する内容が正しいか、証拠が間違っていないか、などをしっかり確認しましょう。
5.内部告発を悪用しない
内部告発を悪用してはいけません。例えば、内部告発を理由に金品をゆすったり、対象者の信用を無くす目的で通報したりなどは、公益通報者保護の対象外です。内部告発は会社の不正を正すことが目的です。目的を忘れないようにしましょう。
会社の不正を告発するとバレる?バレたときのリスクは?
「会社の不正を告発するとバレてしまうのでは?」と不安になる人が多いのではないでしょうか。バレたときリスクについて見ていきましょう。
- 内部告発はバレる可能性が低い
- 内部告発がバレたときのリスク①:職場の人間関係が悪化する
- 内部告発がバレたときのリスク②:ハラスメントなど嫌がらせにあう
- 内部告発がバレたときのリスク③:不当な異動・降格・解雇される
- 内部告発で不当な処分を受けたときの対処法
内部告発はバレる可能性が低い
内部告発はバレる可能性が低いものの、ゼロではありません。比較的にバレる可能性が低いのは行政機関です。一方マスコミに通報した場合は、少しバレる可能性が高くなります。理由としては、マスコミで報道された内容を不特定多数の人がSNSなどで取り上げ、通報者を特定するからです。
社内の窓口を利用するときは、相談方法に気をつけましょう。例えば、メールでの相談はメールアドレスからバレる可能性があります。もちろん面談も対面で話すため危険です。
また、必ず気をつけておけたいことが証拠資料です。先に説明した通り、証拠資料から通報者が特定されるケースがあります。
自分の音声や写真が証拠資料に入っていないか確かめる人は多いです。しかし、証拠資料の情報を特定の人物だけが知っている場合、大まかな人物が特定できてしまいます。細心の注意を払ってから証拠資料を提出しましょう。
内部告発がバレたときのリスク①:職場の人間関係が悪化する
内部告発がバレると、とくに会社の上層部との人間関係が悪化します。本来、会社の不正を正すことは間違ったことではありません。しかし、上層部からは「あいつは裏切り者だ」というレッテルを貼られてしまいます。上層部から目をつけられてしまうと、他の従業員も接し方が変化します。
仲良くしていると自分も上層部から圧力をかけられる可能性があるからです。そのため、職場の人間関係が悪化します。もちろん中には、あなたのしたことが正しいと思っている人も少なくありません。
しかし、あなたに賛同してしまうと自分にも被害が及ぶ可能性があるため、なかなか味方になってくれる人は現れないでしょう。
内部告発がバレたときのリスク②:ハラスメントなど嫌がらせにあう
職場の人間関係が悪化すると、ハラスメントなどの嫌がらせにあう可能性高くなります。例えば、陰口をいわれたり、無視されたりなどです。
解雇や減給などあからさまな不当な扱いがなかったとしても、プロジェクトへの参加が減る、仕事を与えてもらえないなどの扱いを受ける場合もあります。
内部告発がバレたときのリスク③:不当な異動・降格・解雇される
内部告発がバレたときに多いのが、異動や降格、解雇などの報復人事です。内部告発の後に左遷された、役職を下げられたなどが起きる可能性があります。
このように不当な処分は、公益通報者保護法によって無効になるケースがほとんどです。そのため、大きな心配はいりませんが、会社との交渉や裁判を行うリスクが伴います。
内部告発で不当な処分を受けたときの対処法
内部告発で不当な処分を受けたときは、労働基準監督署や弁護士に相談しましょう。労働基準監督署に相談するときは、新しく申告する必要があるので、調査や指導が再度行われます。内部告発による不当な処分は、不利益処分禁止違反(労働基準法104条)となる可能性が高いです。そのため、是正に期待ができます。
内部告発(内部通報)の事例
実際にあった内部告発の事例をいくつか紹介します。
日本郵便の恫喝事件(令和3年)
この事件は、福岡県の複数の郵便局長が九州地区でNo.2の座にあった郵便局長Aを内部通報した事件です。内部通報を知った郵便局長Aは、内部通報した通報者に対してパワーハラスメントを行いました。その後、通報者を含む計7人の郵便局長は、精神的苦痛を受けたとして、会社に対し損害賠償を求めました。
パワーハラスメントを行った複数の郵便局長に対して、停職2名を含む懲戒処分となった事件です。
大王製紙事件(平成28年)
この事件は、大王製紙の従業員が会社の不適切な会計処理を内部告発した事件です。従業員は、組織外部の役員に「告発状」を送付し、その内容が業界新聞にも掲載されました。内部告発を受けた大王製紙は、その従業員を降格処分し、出向を命じました。
従業員は、降格処分を受け入れず出向に応じなかったため、懲戒解雇を命じられました。これに対して従業員は、「降格処分・懲戒解雇」は無効だと会社を訴えたのです。判決では、降格処分は有効とし、懲戒解雇は無効となりました。
ミートホープの食肉偽装事件(平成20年)
食肉加工会社ミートホープで起きた事件です。当時、常務だった赤羽氏は会社の不正(食肉偽装)に気づき、社長であった田中氏に不正を辞めるように言及します。しかし、田中氏は経営悪化を理由に不正を辞めません。そこで、赤羽氏は農林水産省北海道農政事務所や保健所など行政機関に匿名で内部告発します。
内部告発したにもかかわらず、行政機関がまったく動いてくれなかったため、会社を退職し、元常務取締役という身分を明かして農林水産省北海道農政事務所に調査の依頼をしました。しかし、ここまでしても証拠の受け取りを拒否し、動いてくれません。
そこで赤羽氏は、朝日新聞に調査したのです。朝日新聞が調査した結果、不正が明るみに出てミートホープは倒産しました。
まとめ
会社の不正は社内の相談窓口や行政機関、マスコミなどの通報しましょう。ただし、内部告発するときは、真剣に考えなければなりません。内部告発がバレてしまうと自分の身に被害が及ぶからです。日本郵便の恫喝事件でも会社の相談窓口に内部通報したことにより、バレてしまいました。
また、ミートホープの食肉偽装事件の赤羽氏は、マスコミの報道により家族や兄弟が離れてしまい、赤羽氏自身もうつ病や精神疾患になってしまいました。会社の不正を正すことは正義感のある行動ですが、将来性のことも考えてから行動に移しましょう。
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