セクハラに証拠がないときはどうするべき?セクハラで訴える手順と証拠の集め方を解説

厚生労働省が調査した「令和5年度職場のハラスメントに関する実態調査」によると、令和2年度の調査に比べてセクハラ被害の数が増えています。「セクハラを訴えたいのに証拠がない」「セクハラを訴える方法がわからない」といった悩みを持つ人は、多いのではないでしょうか。

本記事では、セクハラの証拠がないときの対処法や、証拠の集める方法、セクハラを訴える手順について解説しています。セクハラで悩んでいる人は、ぜひ参考にしてください。

本記事の結論
・セクハラの証拠がないときの対処法は、「日記やメモに記録に残す」「間接的な証拠を探す」など
・セクハラの証拠は「写真」「音声」「メール」などで集める
・セクハラには「対価型セクハラ」と「環境型セクハラ」がある

セクハラの証拠がないときの対処法

セクハラを訴えるには証拠が必要です。しかし、セクハラの証拠がない人もいるのではないでしょうか。セクハラの証拠がないときは、以下の4つの対処法を参考にしてください。

  • 日記やメモなどに記録を残す
  • 間接的な証拠を探してみる
  • 今から証拠を集めてみる
  • 弁護士に相談する

それぞれについて解説します。

日記やメモなどに記録を残す

セクハラの証拠がないときは、日々のセクハラ被害を日記やメモなどに記録してください。記録するときは、以下の項目を意識して書きましょう。

  • いつ(例:2024年〇月〇日)
  • どこで(例:会社の会議室)
  • 誰が(例:上司の〇〇)
  • 何をしたのか(例:肩をなでるように触られた)
  • 補足(例:近くに部下の〇〇がいた、やめてほしいと頼んでも触られたなど)

些細な事でも構わないので、毎日記録することが大切です。継続的かつ日常的にセクハラがあった証拠を残すことで、訴えたときに有利になります。

間接的な証拠を探してみる

写真や録音、動画など直接的な証拠がない場合は、間接的な証拠を探してみましょう。例えば、第三者の目撃情報はないか、セクハラを受けた直後に誰かに相談していたかどうか、などがあります。

過去には、セクハラを受けた直後に上司に相談していた記録があったことで、訴えが認められたケースがあります。セクハラを受けたことを誰かに相談していた場合、セクハラが認められ可能性もあるため、証拠として残しておきましょう。

今から証拠を集めてみる

セクハラの証拠がない人は、今からでも遅くないので証拠を集めてみましょう。過去にセクハラを受けていた証拠がなかったとしても、ポイントを押さえて証拠を集めていけば訴えられます。

弁護士に相談する

法的手段を取る場合は、弁護士に相談することがおすすめです。現在の状況を説明すれば、訴えるために何が必要か、何をすればいいか、アドバイスをもらえます。弁護士に相談するときは、労働問題に関する知識を豊富に有している弁護士に相談しましょう。

ただし、弁護士は相談費用が高いため、相談だけしたい人は社内の相談窓口や総合労働相談センターなどに相談しましょう。

セクハラの証拠を集める方法

繰り返しになりますが、セクハラを訴えるときは証拠が必要です。セクハラの証拠を集める方法は、以下のとおりです。

  • セクハラを受けた写真・動画を撮る
  • セクハラにあたる音声を録音する
  • セクハラの被害をメールやLINEに残す
  • セクハラを受けた詳細を書き留める
  • セクハラにあった事実を第三者に証言してもらう
  • セクハラで受けた心の傷を医師の診断書で示す

それぞれについて解説します。

セクハラを受けた写真・動画を撮る

セクハラを受けた写真や動画は有力な証拠です。セクハラがあった現場やセクハラを受けた相手を映してください。ただし、写真や動画を撮っていることが相手にバレると、セクハラがひどくなる可能性があります。

また、証拠を隠されたり、より姑息な手を使ってセクハラされたりする場合もあるので、注意しましょう。そのため、無理に撮ろうとするのではなく撮れるときだけ撮るように心がけてください。

セクハラにあたる音声を録音する

セクハラにあたる音声を録音するには、スマホや小型のボイスレコーダーを使うといいでしょう。ポケットに入れておけばバレにくいため、証拠に残しやすいです。音声は動画と違って映像がないため、具体的な内容まで話すことがポイントです。

  • 「やめてください」→「(セクハラの相手)〇〇さん、やめてください」
  • 「触らないでください」→「私の肩を触らないでください」
  • 「迷惑です」→「毎日、食事に誘われても迷惑です」

音声を録音するときは、上記のように意識してください。相手の名前や、具体的にどのようなことをされたのか、録音できていれば訴えたときに有利になります。

逆に「やめてください」という録音だけでは、何に対して「やめてください」と言っているのか明確ではありません。セクハラの証拠として認められない可能性もあるので、注意しましょう。

セクハラの被害をメールやLINEに残す

セクハラの直後にメールやLINEで報告・相談したメッセージは、セクハラの証拠として有効です。既に述べたとおり、セクハラを受けた直後に上司に相談していた記録があったことで、訴えが認められたケースがあります。

ポイントは、セクハラを受けた直後に相談することです。セクハラを受けたタイミングと、相談した記録に時差があると、証拠として認められない可能性があります。

また上記でも説明しましたが、相談するときは「〇〇さんに抱き着かれた」「〇〇さんにキスされた」など、具体的な内容を残すようにしましょう。

セクハラを受けた詳細を書き留める

「セクハラの証拠がないときの対処法」でも紹介しましたが、日記やメモなどにセクハラされたことを書き留めましょう。

書き留めるときもセクハラがあった日にち・内容・場所など詳細に書いてください。後日、どのような被害にあったのかを説明するときに、メモがあれば具体的に答えられます。

セクハラ行為にあった事実を第三者に証言してもらう

実際に自分がセクハラを受けているところを見た、第三者に証言してもらいましょう。第三者から証言してもらうときは、音声でも書面でも構いません。なくさないように保管してください。

また、自分と同じ相手からセクハラを受けている人が他にもいる場合、協力して証言することも大切です。自分だけでなく複数人からの証言があれば、訴えるときに有利になります。

ただし、中にはセクハラを受けていることを話したくない人もいます。無理に協力してもらわずに、可能な範囲で協力を求めましょう。

セクハラで受けた心の傷を医師の診断書で示す

セクハラによって精神的にダメージを受けて通院している場合、医師の診断書も重要な証拠になります。心身の健康が損なわれたことを、診断書やカルテなどで記載してもらいましょう。または、可能であれば医師に許可をもらい診断の様子を録音してもいいでしょう。

セクハラにあたる行動とグレーゾーン

セクハラとして認められるケースもあれば、認められないケースもあります。認められないといっても、証拠不十分ではなく、そもそもセクハラ行為として該当しないこともあります。そこで、セクハラにあたる行動とグレーゾーンについて見ていきましょう。具体的には以下の4つについて解説します。

  • そもそもセクハラとは?
  • 業務に関係なく体に触れる行為【代表例】
  • 性的な要求を断った場合に処罰を与える行為【対価型セクハラ】
  • 性的な言動により働きにくくなる行為【環境型セクハラ】
  • セクハラのグレーゾーン

そもそもセクハラとは?

セクハラとはセクシャルハラスメントの略で、「性的な嫌がらせ」のことを指します。具体的には「抱き着かれる」「胸を触れる」などです。一般的には、男性が加害者で女性が被害者になるケースが多いですが、女性が加害者になるケースもあります。

またセクハラといえば、社内で発生するイメージがありますが、出張先や接待の場、業務に関する宴会などもセクハラの対象です。

業務に関係なく体に触れる行為【代表例】

セクハラの代表的な例と言えば「業務に関係なく相手の体に触れる行為」です。「胸を触られた」「頭をなでられた」といった被害を耳にする人は多いのではないでしょうか。例えば、2023年6月、名古屋市にある陸上自衛隊の守山駐屯地に勤務していた男性が、女性の体を触るなどのわいせつ行為をした、といった事例があります。

参照元:陸自元幹部に有罪判決 女性隊員にわいせつ行為の罪 名古屋地裁 – NHK

悪質なセクハラ行為は「強制わいせつ罪(刑法176条)」に該当し、懲役などの刑罰を受ける可能性があります。

性的な要求を断った場合に処罰を与える行為【対価型セクハラ】

セクハラは主に2種類にわけることができ、その内の1つが「対価型セクシャルハラスメント」です。対価型セクハラとは、性的な要求を断ったことにより、解雇・降格・減給・労働契約の更新拒否などの不利益を受けることです。具体的には以下のような状況が当てはまります。

  • 上司にデートを誘われ断ったら、その年の給料が減らされていた
  • 部長にホテルを誘われ「大人な対応を取った方が身のためだよ」と言われた
  • 出張中に上司からのセクハラに抵抗したところ、出張後に突然解雇になった

性的な言動により働きにくくなる行為【環境型セクハラ】

性的な言動によって労働者の職場の空気が悪くなったり、働きにくくなったりして、十分な能力を発揮できず、就業に支障が生じることを「環境型セクシャルハラスメント」といいます。具体的には以下のような状況です。

  • 男性社員がキャバクラの話をしているため、仕事の用事があるのに話しかけにくい
  • 上司の性的なオヤジギャグが頻繫に聞こえてくるため、業務に集中できない
  • 社内に裸のグラビア写真が掲示されており、業務に集中できない

セクハラの感じ方は人それぞれです。加害者にとっては、軽度な性的言動であっても被害者にとっては「環境型セクシャルハラスメント」と感じる人もいます。

セクハラのグレーゾーン

セクハラといっても幅が広く、「どこまでがセクハラに当てはまるのかわからない」と疑問を持つ人も多いのではないでしょうか。判断基準としては「労働者の意に反する性的な言動」「就業環境を害される」の2つです。セクハラの判断基準は難しく、具体的を紹介しますので、参考にしてください。

食事やデートを誘う行為

食事やデートを誘う行為は、仕事への関係性で変わります。仕事上、関係がある場合はセクハラとは認められません。しかし、個人的に何度も誘う行為はセクハラとして認められやすいです。行政のガイドラインでは、「執拗(しつよう)な誘い」がセクハラに当てはまるとしています。

相手の名前を「〇〇君」「〇〇ちゃん」で呼ぶ行為

職場で男性に対して「〇〇君」、女性に対して「〇〇ちゃん」と呼ぶ行為は、セクハラに当てはまる可能性があるので注意しましょう。2023年3月に大学教授が学生に対して「〇〇ちゃん」と呼んだりしたことで、停職2か月の懲戒処分になった事例があります。
参照元:広島市立大学

「〇〇君」や「〇〇ちゃん」と呼ぶのが当たり前な職場もあります。呼ばれた本人や周りが不快に思わない場合は、セクハラに当てはまりません。セクハラとしての基準が難しいため、誰に対しても「〇〇さん」と呼ぶのが無難です。

セクハラの証拠を集めて訴えるまでの流れ

セクハラを訴えるまでの手順は、主に以下の4つです。

  1. セクハラの証拠を集める
  2. 上層部や会社の相談窓口に相談する
  3. 会社に「ハラスメント差し止め要求書」を送る
  4. 労働審判・裁判を提起する

セクハラを訴えるか検討している人は、参考にしてください。

手順1:セクハラの証拠を集める

セクハラを訴えるためには証拠が必要です。本記事で紹介した「セクハラの証拠を集める方法」を参考に、証拠を集めてください。

手順2:上層部や会社の相談窓口に相談する

会社はセクハラの存在に気づいていなければ、何も行動してくれません。そのため、上層部や会社の相談窓口に相談して、社内でセクハラが起きていることを認識してもらいましょう。証拠があれば、会社側も調査がしやすくなり、行動に移してもらえます。

加害者に注意をしたり、部署を変えてもらったりなど、何かしらの対策を講じてもらい、セクハラが収まるケースもあります。しかし、相談したにもかかわらず何も行動に移してもらえないときは、会社に「ハラスメント差し止め要求書」を送りましょう。

手順3:会社に「ハラスメント差し止め要求書」を送る

「ハラスメント差し止め要求書」とは、セクハラを辞めるよう会社に要求する書面です。書面を直接手渡しすると証拠が残らないため、内容証明郵便や簡易書留などで郵送して、記録に残るようにしてください。書面を送っても対応してもらえない場合は、労働基準監督署に相談することも1つの手です。

いきなり労働審判や裁判を提起してもいいですが、円満に解決したい場合は、労働基準監督署に相談しアドバイスをもらってください。

手順4:労働審判・裁判を提起する

ここまでの手順を踏んでも解決しない場合は、労働審判や裁判を提起しましょう。自分1人で法的手段を取ることは難しいため、弁護士に相談することをおすすめします。

まとめ

セクハラの証拠がないときは、「間接的な証拠を集める」「日記やメモなどに記録を残す」などの対処法がおすすめです。セクハラを訴えるときは、必ず証拠が必要です。そのため、証拠がないときは本記事で紹介した「セクハラの証拠を集める方法」を参考に証拠を集めましょう。

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