交通費を不正請求すると解雇される?バレたときの対応と違法について解説

交通費を不正請求すると解雇される?バレたときの対応と違法について解説

交通費の不正請求は違法です。交通費の不正請求が会社にバレると、懲戒処分や解雇などの処分を科される可能性があります。自分では不正請求しているつもりがなかったとしても、申告忘れなどが原因で不正請求になるケースもありますので、注意しましょう。

本記事では、交通費を不正請求したときに科される処罰や、会社にバレたときの対処法について解説します。

本記事の結論
・交通費を不正請求すると解雇や懲戒処分などを科される
・申告忘れや通勤手段・経路を偽ることは不正請求にあたる
・交通費を不正請求が会社にバレたらすぐにやめて謝罪や返金すること

交通費を不正請求すると解雇?懲戒処分?

交通費を不正請求すると、何らかの処罰を科される可能性があります。例えば、以下の通りです。

  • 懲戒処分される
  • 解雇される
  • 不正請求した金額の返還を求められる
  • 詐欺罪や横領罪を科せられる

それぞれについて解説します。

懲戒処分される

懲戒処分は、労働者が企業秩序を乱す行為をしたときに労働者に対して下すペナルティです。企業秩序を乱す行為はさまざまですが、就業規則の定めに基づいて下します。厚生労働省のモデル就業規則(令和5年7月)では、「過失により会社に損害を与えたとき」に懲戒処分とすると定めています。

不正請求は上記にあてはまる行為です。交通費を偽り請求することは、企業秩序を乱す行為として明らかであり、たとえ少額だったとしても許されることではありません。

懲戒処分といっても種類がいくつかあり、以下のようなものがあります。

懲戒処分の種類 処分内容
けん責 始末書を提出させ将来を戒める
減給 始末書を提出させ、減給する
出勤停止 始末書を提出させ、一定期間出勤させない(出勤しない期間は賃金を支給しない)
懲戒解雇 予告期間を設けることなく、即時解雇する

申告忘れや少額の横領であれば、けん責や減給など軽い懲戒処分にとどまるケースが多いと予想されます。

解雇される

懲戒処分の中で最も重い処分が、懲戒解雇です。数回にわたり注意・懲戒処分したにもかかわらず改善が見られなかったり、不正請求した交通費が多額であったり、悪質な場合は懲戒解雇になる可能性があります。

交通費の不正請求は悪いことですが、懲戒解雇という処分は重過ぎる場合があります。この場合は、権利の濫用にあたるため、解雇は無効です。労働契約法第16条には、以下のように定めています。

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

引用元:労働契約法 | e-Gov 法令検索

懲戒解雇されてもあきらめることなく、不服がある場合は弁護士などに相談しましょう。

不正請求した金額の返還を求められる

不正請求した金額は返還しなければなりません。偽って得た交通費なので、会社に返すことは当然です。交通費を不正請求したことがバレれば、すぐに自ら返金を申し出ましょう。

会社からいわれるまで黙っていたり、返金を拒むような行動をしていたりすると、不法行為(民法709条)により損害賠償を請求される可能性があります。

詐欺罪や横領罪を科せられる

交通費の不正請求が悪質であれば、詐欺罪(刑法246条)や業務上横領罪(刑法253条)といった犯罪にあたる可能性があります。

罪名 法定刑 内容
詐欺罪(刑法246条 10年以下の懲役 会社を欺き財産上不法の利益(交通費)を得た
業務上横領罪(刑法253条 10年以下の懲役 業務上、自分の地位を利用して会社の交通費を横領した

交通費の不正請求は、実際に交通費が発生していないのにもかかわらず、会社に交通費が発生したと欺く行為です。金額の大小に限らず、会社の財産を奪い取っている行為ですので、詐欺罪にあたります。

また、交通費を支給されるのは従業員のみです。従業員という業務上の地位を利用して、交通費を横領しているため、業務上横領罪にもあてはまります。

交通費が不正請求と認定されるケース

通勤手当の申請忘れなどで、自分が意図していなくても不正請求したと認定されるケースがあります。具体的には、以下の3つのケースが想定できます。

  • 住所や最寄り駅を偽り、交通費をもらう
  • 通勤手当の申請を忘れて、交通費をもらう
  • 通勤手段・経路を偽って、交通費をもらう

それぞれについて見ていきましょう。

住所や最寄り駅を偽り、交通費をもらう

自分が実際に住んでいる住所よりも遠くに住んでいると噓をつき、交通費を不正請求します。例えば以下のような例があります。

  • 会社の近くに引っ越してきたのに申請をしない
  • 会社の近くに住んでいる恋人の家に同居している
  • 一人暮らしを始めたのに実家の住所で申請している

申請している住所よりも近くから通勤している場合は、交通費の横領にあたりますので、注意しましょう。

通勤手当の申請を忘れて、交通費をもらう

継続的に勤務している場合は、引っ越しすることもあります。しかし、引っ越したものの通勤経路の変更を申請し忘れていると交通費の横領にあたります。「うっかりわすれていた」といった過失の場合であっても、交通費を不正請求していることと変わりません。

この場合しっかり反省し、不正請求した金額を返金すれば、けん責や減給程度の処罰で済むはずです。交通費を不正請求しないためにも、住所や交通手段などが変わった場合は、速やかに会社へ申請しましょう。

通勤手段・経路を偽って、交通費をもらう

通勤手段や経路を偽って交通費を多く受給するケースです。例えば以下のようなものがあります。

  • 不要な電車の乗り換えルートを申請した
  • 電車通勤を申請しているのに自転車で通勤している
  • 会社の最寄り駅から「2駅前」に降りて歩いて通勤している
  • 特急料金を申請しているが、急行電車で通勤している
  • 定期代を受け取っているが同僚の車で一緒に通勤している

申請している交通費よりも安くなる通勤手段や経路で通勤することは、不正請求にあたります。通勤手段や経路を変更した場合、申請しなおしましょう。交通費が「固定賃金」なのか「実費支給」なのかによって、変わるケースもあります。

例えば、会社の最寄り駅の1駅前で降りて、健康のために歩いている人もいるのではないでしょうか。

1駅前で降りて、交通費を浮かせた金額を自分の懐に入れることは、横領となります。しかし、交通費で会社の最寄り駅までの定期を購入している人が、1駅前で降りて歩いたとしても横領にはなりません。

ポイントは、会社から受け取った交通費を自分の懐に入れてるかどうかです。交通費に関する規定は、会社の就業規則によって異なりますので、事前に確認しておきましょう。

交通費を不正請求していることがバレるのはなぜ?

交通費を不正請求していることがバレる場合があります。しかし、なぜバレるのでしょうか。不正請求がバレるケースは、以下の2つが考えられます。

  • 他の従業員に目撃されて不正請求がバレる
  • 会社の調査によって不正請求がバレる

他の従業員に目撃されて不正請求がバレる

異なった通勤手段で通勤しているところを見られてしまい、バレるケースがあります。例えば、電車通勤している人が、自転車で通勤しているところを見られてしまう、といったパターンです。

「電車が人身事故で遅れているため、遅刻しないように自転車で通勤しました」といったような、正当な理由があれば問題ありませんが、自然な説明ができない場合は怪しまれてしまいます。また、真面目な従業員が不正しているところを発見し、上司に報告してバレることもあるでしょう。

会社の調査によって不正請求がバレる

交通費を申請すると、会社はその申請が適切なものか調査します。例えば、わざと電車の乗り換えが多く運賃の高いルートを申告すれば、すぐにバレてしまいます。また、他の従業員が交通費を不正請求していることがバレ、会社が改めて調査したことによりバレてしまうケースも少なくありません。

交通費の不正請求がバレたときの対処法

交通費の不正請求がバレたときの対処法は、以下の通りです。

  • 交通費の不正請求をすぐにやめる
  • 交通費の不正請求について謝罪する
  • 交通費の不正請求についての調査に応じる
  • 交通費を不正請求した金額を返金する

交通費の不正請求をすぐにやめる

交通費の不正請求がバレた場合、すぐにやめましょう。「交通費の申請内容が間違っていた」と、後日正しい内容で申請すれば、入力ミスしただけだと思ってもらえます。交通費の申請が間違っていると指摘された、にもかかわらず、繰り返し不正請求していると、悪質なケースだと判断される場合もあるため注意しましょう。

交通費の不正請求について謝罪する

会社に謝罪し、反省することが大切です。下記のような謝罪文を作成し、会社に提出しましょう。

謝罪文

〇〇株式会社
代表取締役社長 〇〇様

この度は、私の軽率な行動により、貴社に被害を与えたことを深くお詫び申し上げます。

貴社からいただいた交通費を私的に使ってしまい、貴社にご迷惑をかけてしまい、大変申し訳ございません。

今回、私が横領した金額〇〇万円を直ちに全額、返済させていただきたいと存じます。

この度の私の軽率な行動に関して、いかなる処分も甘んじて受けます。また、私の進退に関しましても、貴社の判断に従います。

改めてこの度の私の非違行為により、貴社に迷惑と損害を与えましたことを、深くお詫び申し上げます。

〇年〇月〇日 〇〇部署 〇〇(自分の名前)

「不正請求しているのでは?」と疑いの目が向けられている間に、自ら申告し謝罪しましょう。完全にバレてしまってから対応するよりも、自ら自白するほうが誠意を見せられます。

謝罪文を作成する場合は、一切言い訳をせず、1文目から謝罪しましょう。返金額が大きく一括返済できない場合は、分割払いすることを提案しても構いません。

交通費の不正請求についての調査に応じる

交通費の不正請求が明らかになれば、会社が労働者に対して事情聴取や資料の提出を要求します。このような調査に対して、素直に協力しましょう。言い訳したり、嘘をついたりすれば、悪質だと判断され処罰が重くなる可能性があります。

また、バレていない不正やもっと横領がある場合は、このときに自ら申告することが大切です。いずれ調査でバレることなので、先に申告して心証をよくしておきましょう。

交通費を不正請求した金額を返金する

反省していることを示すためにも、不正請求した金額の返金を申し出ることが大切です。ただし、不正請求した金額よりも過大に求められるケースがあります。自分が不正請求した金額と合っているか確かめてから返金しましょう。

交通費を不正請求した判例

交通費を不正請求した裁判例を見ていきましょう。

【アール企画事件:懲戒解雇が認められた判例】

  • 従業員Aは住所を偽って申請し、約3年間で約102万円の通勤手当を騙し取っていた
  • 即時解雇されてもやむを得ないほどの重大、悪質な背信行為であるとした
  • 「労働者の責に帰すべき事由」があるとして、解雇予告手当の請求を棄却した

参考元:労働基準判例検索-全情報

【かどや製油事件:懲戒解雇が認められた判例】

  • 従業員Bは約4年半の間、実際は品川区に住んでいながら宇都宮市に住所を偽って申請していた
  • 不正請求していた金額は、約231万円
  • 上司に連絡を入れずに職場から離れ、連絡が取れない状態にし業務をさぼっているなど、勤務態度が悪いことを併せて懲戒解雇とした

参考元:労働基準判例検索-全情報

【東奥学園事件:懲戒解雇が認められなかった判例】

  • 学校法人に雇用されていた非常勤講師Cが、雇用が継続されないのは不当であるとして控訴した
  • 非常勤講師Cは実家の住所で申請していたが、実際は婚約者の家から通勤していた
  • しかし、実家からの通勤距離は6.6キロメートルで婚約者宅からの通勤距離は5.7キロメートルとあまり差がないことから、意図的に不正受給したとはいえない
  • また住所変更届の提出を速やかにするよう求めたが、1ヶ月弱の期間適切な対処を怠っていたことに関しては、婚約者間の事情もあり真摯に受けとめなかったと評価できない
  • 非常勤講師Cに対し、一切弁明の機会を与えていないことは不当だとする
  • これらのことを総合的に考え、権利の濫用だとし、懲戒解雇は無効だとした

参考元:労働基準判例検索-全情報

【全国建設厚生年金基金事件:懲戒解雇が認められなかった判例】

  • 従業員Dは、会社に提出した通勤経路の区間の定期券を購入せず、異なる区間の安い定期券を購入していた
  • 会社から不正請求に関する面談を実施したときに、虚偽の事実を申告していた
  • 約2年半で約15万円を不正請求していた
  • 不正請求したことは「懲戒処分」には該当するが、職員としての身分を剥奪する程に重大であるとはいえないため、諭旨退職処分を無効にした

参考元:労働基準判例検索-全情報

交通費の不正請求に関するよくある質問

交通費の不正請求に関するよくある質問は、以下の通りです。

  • 交通費の不正請求は時効があるの?
  • 交通費の不正請求がバレれば退職したほうがいい?
  • 交通費を支払う義務は会社にない?

それぞれについて見ていきましょう。

交通費の不正請求は時効があるの?

交通費の不正請求は、責任の種類によって時効が異なります。

不当利得(民事責任)の時効:民法第166条

  • 権利を行使することができることを知った時から5年
  • 権利を行使することができる時から10年

刑事責任の時効:刑事訴訟法250条

  • 公訴時効は犯行が終わってから7年
  • 詐欺罪や業務上横領罪は、「長期15年未満の懲役又は禁錮に当たる罪」に該当します

懲戒処分や解雇に関しては、時効がありません。そのため、どれほど前に不正請求していたとしても、懲戒処分や解雇になる可能性はあります。ただし、長期間過ぎている場合は「権利の濫用」に該当する可能性が高いです。

交通費の不正請求がバレれば退職したほうがいい?

交通費の不正請求がバレた場合、退職すべきは状況によって異なります。以下の3つの基準を参考に退職すべきか検討しましょう。

  • 不正の程度:不正請求の金額が大きい・期間が長い場合は、会社への損害が大きく信用を失うため退職したほうが良いでしょう。
  • 故意か過失か:意図的に不正請求したのか、ミスによるものかで処分の重さが変わる。不正請求する意図がなかった場合は、謝罪・返金するだけで退職する必要はありません。
  • 会社の対応:会社の対応に委ねるのも1つの手です。会社から退職勧奨される場合は退職を検討し、減給程度であれば退職する必要はありません。

交通費の不正請求がバレたことで、職場環境が悪化し、業務に支障が出る場合は退職をおすすめします。過失によるもので、継続して会社と良好な関係を築ける場合は退職する必要はないでしょう。

交通費を支払う義務は会社にない?

交通費を負担してくれる会社は多くありますが、法律上、交通費を支払う義務は会社にありません。つまり、会社が交通費を支給しなかったとしても良いのです。労働法においては、労働者が会社まで自力で来ることを原則としています。

「交通費がもらえるのは当然」「給料が安いから交通費をもらおう」といった考えは、「交通費は労働者が負担することが原則」というルールに反した考えです。

法律上、交通費を支払う義務が会社にないため、交通費の上限や清算のルールなどを設けることも違法ではありません。

まとめ

交通費の不正請求がバレたからといって、必ずしも解雇になるわけではありません。「不正の程度」や「労働者の対応」によっても異なります。不正請求がバレたときは、謝罪や返金するなど反省していることを示しましょう。

住所や通勤経路(手段)を偽り、通勤手当を申請することは不正です。うっかり忘れてしまった場合でも、不正請求していることに違いありません。住所や通勤経路が変わったときは、速やかに申請し直しましょう。

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