給与未払いで裁判しても負ける?訴訟するまでの手順や注意点を解説します

給料未払いは違法ですので、裁判で訴えることが可能です。しかし、裁判で訴えたとしても必ず帰ってくるとは限りません。給料未払いの証拠が足りないと裁判に負ける恐れがあります。

本記事では、給料未払いを訴えるまでの手順と注意点について詳しく解説します。また給料未払いを訴えるか検討している人が相談できる窓口を4つ紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

本記事の結論
・給料未払いは労働基準法に違反する
・給料未払いの証拠があれば裁判で訴えることが可能
・給料未払いについての相談窓口は「社内の相談窓口」「労働基準監督署」など
・給料未払いを未然に防ぐ方法は「経営状況を把握する」「会社と良好な関係を築く」こと

給料未払いは違法である

給料未払いは違法です。法律上、どのように定められているのか具体的に見ていきましょう。

  • 給料未払いは労働基準法に違反する
  • 給料未払いは利息が付く

それぞれについて解説します。

給料未払いは労働基準法に違反する

給料未払いは、労働基準法に違反するため裁判で訴えることが可能です。給料未払いといっても、給与や賞与、残業代、休業手当などさまざまです。未払いの種類とそれに対応する労働基準法をまとめました。

労働の対価として支払うもの(給与・賞与など) 労働基準法11条
労働基準法24条
解雇予告手当 労働基準法20条
休業手当 労働基準法26条
時間外労働などによる割増賃金 労働基準法37条
年次有給休暇に関する賃金 労働基準法39条

給料未払いについては、労働基準法24条で定められています。なお、労働に対して使用者が支払うすべてのものは法律上、「給料」ではなく「賃金」が正式名所です。労働基準法では、「賃金支払いの5原則」という5つのルールが定められています。

通貨払いの原則
賃金の現物支給や手形や小切手は禁止されており、現金で支払わなければなりません。ただし、労働協約で別に定めている場合は、現金以外でも可能です。
直接払いの原則
賃金は直接本人に支払わなければなりません。第三者や代理人に委任することはできません。未成年者(20歳未満)も同様です。
全額払いの原則
賃金の一部を「積立金」として控除できず、全額支払わなければなりません。ただし、社会保険料や所得税など法律で定められてものや労使協定で認められたものは除きます。
毎月1回以上払いの原則
賃金は少なくとも毎月1回以上支払わなければなりません。数ヶ月分の賃金をまとめて払うことはできません。臨時の手当てや賞与は対象外です。
一定期日払いの原則
支払日を明確にし、一定の期日に支払わなければなりません。「毎月第2金曜日」「毎月20日から月末の間」などはできません。

給料未払いは上記の労働基準法に違反している行為です。給料や休業手当の未払いは、労働基準法120条の規定により、30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。また、解雇予告手当や残業代に関しては、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。

給料未払いは利息が付く

給料未払いが発生した場合、未払い金額のみを支払えばいいわけではありません。給料未払いは利息が付くため、支払われなかった期間分を「遅延損害金」として請求することが可能です。遅延損害金の発生日は、現在もその会社に勤務しているか、退職しているかによって変わります。

現在も勤務している場合は、就業規則などで定められている給料の支払日の翌日から遅延損害金が発生します。一方、退職している場合は、退職日の翌日が遅延損害金の発生日です。

給料未払いは、年率3%の割合で遅延損害金を支払わなければなりません(民法404条)。年率は3年ごとに見直されるため、請求するときは民法404条を再度確認してください。

退職した場合は、退職した日までは年率3%ですが、退職した翌日からは14.6%を超えない範囲内で遅延損害金が発生します(賃金の支払の確保等に関する法律6条)。

給料未払いを裁判所で訴えるまでの手順

給料未払いを裁判所で訴えるまでの手順は、以下の4つです。

  1. 給料未払い額を計算する
  2. 給料未払いがある証拠を集める
  3. 給料未払いを会社に請求する
  4. 4つの法的手続きから利用するものを選ぶ

それぞれについて解説します。

給料未払い額を計算する

まずは給料未払いがいくらあるのか計算しましょう。給与明細や雇用契約書、就業規則などを参考にしながら計算します。基本給以外にも、残業代や休業手当、賞与、退職金などを考慮して計算してください。賞与や退職金はどの企業でも必ず受け取れるものではないため、該当する場合のみ計算しましょう。

また先ほど紹介した遅延損害金も請求できます。これらの計算を一人でするには難しい場合は、労働基準監督署や労働組合などに相談しましょう。

給料未払いがある証拠を集める

給料未払いを素直に支払ってくれる会社であれば、上記で計算した金額を伝えるだけで済みます。しかし、給料未払いが発生するような会社は、給料未払いを認めない可能性があります。そのため、給料未払いがある証拠を集める必要があるのです。

給料未払いを裁判で訴える場合は、必ず証拠が必要です。証拠がなければ裁判で負けると思っておきましょう。以下のような資料は、証拠として有力ですので集めておきましょう。また有力になるとは限らないけど、集めておいた方がいい証拠も紹介します。

証拠として有力な資料

・給料明細
・源泉徴収票
・給与口座の履歴
・労働契約書
・就業規則
・雇用契約書
・タイムカード
・勤怠表(シフト表)
・業務日誌や残業指示書

有力になるとは限らないけど集めておいた方がいい資料

・会社のパソコンを利用して履歴
・勤務時間に関して記した日記やメモ
・勤務している姿が映った防犯カメラの録画
・勤務中に取引先とやりとした通話履歴やメッセージ

上記のような証拠を集めることが重要です。しかし、会社が証拠となる資料を開示してくれないケースもあります。どうしても証拠が集まらないときは「証拠保全」という手続きをしましょう。証拠保全は、裁判官が直接会社に証拠の提示を求める方法です。

ただし、裁判所を介する方法であり、手続きが難しいです。そのため、「証拠保全」を申請する場合は弁護士に相談しましょう。

給料未払いを会社に請求する

準備が整えば、会社に給料未払いを請求しましょう。手渡しや普通郵便では証拠を隠滅される可能性がありますので、配達証明付きの「内容署名郵便」で郵送しましょう。内容署名郵便を送っても対応してもらえないときは、労働基準監督署に申告しましょう。

給料未払いは労働基準法に違反するため、違反を是正してもらえる可能性があります。会社が所属する県庁所在地が管轄になりますので、「都道府県労働局(労働基準監督署、公共職業安定所)所在地一覧」から検索してください。

4つの法的手続きから利用するものを選ぶ

最後の手段は、裁判による法的手段です。一般的な民事訴訟でも良いですが、解決まで長期戦になってしまうため、以下の4つの法的手続きを利用するといいでしょう。

少額訴訟
・原則1回の審理で判決が下る迅速な手続き
・60万円以下の請求のみ利用可能
・通常の訴訟と費用は変わらない
民事調停
・話し合いで円満な解決を目指す手続き(話し合いは非公開)
・裁判所の調停委員会によるあっせん
訴訟に比べて費用が安く、3ヶ月ほどで調停が成立する
支払督促
・書類審査のみで行う迅速な手続き
・会社が異議を申し立てると通常の民事訴訟に移行する
裁判所書記官が金銭の支払いを求める
労働審判
・労働関係の紛争について行う迅速な手続き
・原則として審理と判決は3回までの期日で進行する
・給料未払い以外の労働問題についても併せて話し合える

給料未払いを裁判で訴えるときの注意点

給料未払いを裁判で訴えるときの注意点は、以下の3つです。

  • 給料未払いは時効がある
  • 給料未払いの証拠が足りないと裁判に負ける恐れがある
  • 給料未払いを警察に相談してもあまり意味がない

それぞれについて解説します。

給料未払いは時効がある

給料未払いを請求できる期間は、3年間です。労働基準法115条ならびに143条には、以下のように記載されています。

【労働基準法115条】
この法律の規定による賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間、この法律の規定による災害補償その他の請求権(賃金の請求権を除く。)はこれを行使することができる時から二年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。

【労働基準法143条】
第百十五条の規定の適用については、当分の間、同条中「賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間」とあるのは、「退職手当の請求権はこれを行使することができる時から五年間、この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)の請求権はこれを行使することができる時から三年間」とする。

引用元:労働基準法 | e-Gov法令検索

なお退職金は時効が5年です。時効が過ぎてしまうと、請求しても支払われなくなります。もし時効が迫っている場合は、会社に対して催告(裁判以外で請求)してください。催告すると時効の完成を6ヶ月間猶予させることが可能です(民法150条)。

時効が完成する前に催告したことを証明する必要がありますので、催告するときは配達証明付きの「内容署名郵便」を利用しましょう。

給料未払いの証拠が足りないと裁判に負ける恐れがある

繰り返しになりますが、給料未払いを裁判で訴えるには証拠が必要です。証拠がなければ裁判に負けます。また証拠を集めたとしても、有力な証拠として認められなければ裁判に勝てません。例えば、給料未払いとして残業代の未払いを請求するとします。

そのときに裁判に負ける理由としては、以下のとおりです。

  • 残業の証拠が不十分または有力な証拠ではない
  • 会社が残業することを認めていなかった
  • 労働時間ではなく通勤時間とみなされた
  • 既に固定残業代が支払われていた
  • 管理監督者なので残業代が発生しなかった
  • 時効が完成していた

給料の種類によっても裁判に負ける理由は異なりますが、基本的には証拠がカギとなりますので、念入りに準備しておきましょう。

給料未払いを警察に相談してもあまり意味がない

給料未払いは基本的に労働法に基づくものなので、警察に相談しても解決に結びつきません。ただし、詐欺行為や暴力行為など刑事罰につながるような問題に発展するようであれば、警察に相談してください。大半の会社は、給料を支払う意思があるため、詐欺罪などで立件することが難しいです。

また上記と似た理由でハローワークに相談しても意味がありません。ハローワークは給料未払いに関して管轄外です。給料未払いに関して相談する場合は、次に紹介する4つの相談窓口を利用しましょう。

給料未払いについて相談する窓口は?

給料未払いの相談窓口として有効なのは、以下の4つです。

  • 社内の相談窓口
  • 労働基準監督署
  • 労働組合
  • 弁護士

それぞれについて解説します。

社内の相談窓口

何かしらのトラブルで給料の振り込みが遅れている場合もあります。そのような場合は、社内の相談窓口に相談すれば、スムーズに解決できます。ただし、ブラック企業などは相談しても相手にされない可能性があるため、社外の相談窓口を利用しましょう。

労働基準監督署

労働基準監督署は、労働問題に関する相談ができる公的機関です。給料未払いはもちろん、残業や退職なども併せて相談できます。公的機関なので信頼性は高いですが、強制力には欠けます。しかし、相談は無料で匿名でも通報できることがメリットです。

注意点としては、相談したからといって必ずしも行動に移してくれるとは限らないことです。給料未払いの証拠をしっかりと集め、違反の疑いが強いことをアピールできれば、動いてもらいやすくなります。

労働組合

労働組合は、労働者が主体となり労働者が団結して労働条件の解決を目指す集団です。団結していることで、個人よりも交渉力が増します。また、労働者で構成されているため、労働者の立場に立ったサポートを比較的、低コストで利用できることがメリットです。

未払い金額が少ないときや円満解決を目指したい人に向いています。ただし、労働組合ができるのは、交渉のみです。会社が話に応じない・非を認めないときは、弁護士に相談しましょう。

弁護士

弁護士は法律に関するエキスパートです。給料未払いを裁判で訴えたい人は弁護士を利用しましょう。法的なアドバイスはもちろん、法的手続きにより問題を解決できます。しかし、他の相談窓口と違い費用がかかります。お金に余裕のない人は利用が難しいでしょう。

法的手続きを検討している人は弁護士、給料未払いに関する相談をしたい人は労働基準監督署や労働組合を利用しましょう。

給料未払いを未然に防ぐには?

給料未払いを未然に防ぐには以下の3つを意識してください。

  • 経営状況を把握する
  • 会社と良好な関係を築く
  • 雇用契約書を見直す

それぞれについて解説します。

経営状況を把握する

給料未払いは経営不振の状態に陥ると発生する可能性が高くなります。経営不振は、従業員に給料を支払いたくても支払うお金がない状況です。現在の経営状況を把握しておけば、給料未払いの対策ができます。

もちろんいかなる理由があろうと給料未払いは、支払わなければなりません。そのため、給料未払いがある場合はしっかり請求しましょう。

会社と良好な関係を築く

「会社に迷惑をかけた」「急に退職するから」などの理不尽な理由で、給料を払ってもらえないケースがあります。とくに会社と良好な関係を築けていない場合、嫌がらせなどで給料未払いにつながることもあります。会社と良好な関係を築けていれば、このような問題を減らすことが可能です。

上司と積極的にコミュニケーションをとるなど、会社と良好な関係を築いておきましょう。

まとめ

給料未払いは労働基準法に違反するため、裁判で訴えることが可能です。裁判で訴える場合は、証拠が必要です。証拠が不足している、有力な証拠ではない場合、裁判に負ける可能性があります。本記事で紹介した「給料未払いがある証拠を集める」を参考に、有力な証拠をあつめましょう。

また、給料未払いを裁判で訴える手順や注意点を参考にしていただければ幸いです。

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